遠い日の追憶1
「んな事言われてもなぁ、ぽっぽ…願い事知ってんのはあいつだけだし…でも当の本人が分からないって言ってるからなぁ...」
家で寝ているめんまを除いた俺達"超平和バスターズ"は今、願い事について話し合っている。太陽はとうに山の裏に去って行ったのに、暑さだけはいつまでも去ろうとはしない。
その暑さのせいで俺達の思考能力は著しく低下していた。俺はソファに深く腰掛けて天井を見上げた。
はぁ...無事めんまを成仏させてあげる事はできるのか...。
「めんまが日記を通してお前以外と話せる事ができるのはいいが、思い出さなければ埒が明かないな...」
ゆきあつが呆れたように言った。
「そうね。でも協力して考えない事には進歩はないわ。」
「でもよぉ、みんなでなきゃ叶えらんねー願い事って言われてもなぁ...それより腹減ったぜぇ...」
ぽっぽは相変わらずこの調子だ。そーいや俺も昨日めんまが作った蒸しパンの残りしか食べてねーや...。極度の空腹が俺の神経をチクチクと刺激している。
「はぁ…」一斉に全員がため息を吐いた。しばらく続く沈黙。全員が疲れ果てていた。
「そういえばさ、前にもこんな事あったよね?ほら、じんたんのおばさんの所にお見舞いに行く時にさ、何かして励ましてあげようって話になってさ。」
唐突にあなるが切り出した。
「そういえば...そんな事もあったわね。」
「おおお?!つるこ覚えてんのかぁ?!」
「ええ。あの時はみんな今日みたいに必死に考えてたからね。」
「あの時は宿海の家で遊んでいる時だったか、鶴見。」
「ええ。」
ああ...あの時か...。みんなでたまには母ちゃんの為に何か励ましになる事をって話になって。
あの時も二学期が始まって直ぐの蒸し暑い日だった。夏は終わったというのにセミ達は力強く鳴き、大きな入道雲が胡座をかくように山の上に座っていた。
真昼の暑さに耐えかねた俺たちは俺の家で暇を潰していた。
「あら、じんた君のお友達ー?いらっしゃい。」
「お!父ちゃんお帰り!」
「お邪魔してまーす!」
みんな一斉に挨拶をした。その日親父は母ちゃんのお見舞いの為に早めに仕事を切り上げて来ていた。
「そうだ、後で塔子さんの所へお見舞いに行くから君達も一緒に行くかい?塔子さん喜ぶよ〜。」
「わーい!じんたんのお母さんの所だぁー!めんま久しぶりだなぁー!」
「お見舞いっ!お見舞いっ!おー見舞いっ!」
めんまとぽっぽが飛び上がっている横で、俺は頭をすとんと落としてうつむいていた。
「俺行きたくない...」
「どうして?じんたん。」つるこが怪訝そうに覗き込んで来る。
「どうしてって...白い顔して元気のない母ちゃんの顔なんて見たくないから...」
母ちゃんは会いに行く度に弱々しくなっていった。小さな俺にはそんな母さんを見ている事なんてできなかった。モヤモヤはお見舞いに行く度に募っていって、今でも心の奥深くに根強く絡みついていて拭い去れない。
そう、弱々しい母ちゃんの姿が...。
「じんたん...」あなるとつるこがそう呟いた。零れ落ちた台詞には不安な気持ちが込められていた。
一瞬で場の空気が凍った。
はぁ...何やってんだろ俺...こいつらのリーダーなのに...。弱い所見せちまった…。
「あー!めんまいい事考えた!」
めんまが氷を突き破るように叫んだ。
...続く