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俺だけを。

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目の前に女がいる。触ればサラサラと音でもたてそうなセミロングの金髪を後ろにとめている。俺と似たような瞳の色をした彼女の瞳は、いつも赤を映している俺とは対照的に、青を映している。

「チッ」

 舌打ち。静かなこの職場ではよく響いた。「…っ!」と、後ろから息を呑む様子がうかがえる。大方、秋山あたりが俺の顔色を伺っているんだろうなぁ、と関係のないことを考えてみる。
 でも、胸のモヤモヤは止まらないばかりか、身体中に広がっていくような気がした。パソコンのキーボードを打つ手は、随分前から止まっていて、俺の瞳は目の前の女を凝視していた。

 彼女の手には携帯端末。
 電話の相手はわかっている。どうせ『室長』なのだろう。彼女の顔は、いつもと変わらないように見えるが、相手が喋っている間は僅かに口角が上がり、瞳はその場にいないはずの青〈電話の相手〉を視ていた。

 苛々、苛々。
 はて、俺はこの感情を知っている。数年前、吠舞羅に入ったばかりの頃まで遡る。俺の隣にいたはずだった少年は、俺だけを映していた美咲の瞳は、いつの間にか赤の王でいっぱいになっていた。「尊さん、尊さん」と口を開けば『尊さん』ばかりだった。

 頭が、ぐるぐると。
 あぁ、そういえば目の前にいる副長も口を開けば『室長』とばかり言う。
 赤と青。
 男と女。

 まったく違うはずの二人は、俺にとっては全く同じにしか見えなくなっていた。特に、俺を全く視ようとしないところはそっくりだ。
 美咲は、『美咲』って呼ぶと怒りを灯した瞳に俺だけを映してくれる。
目の前の、女は。副長は?どうやったら、俺を映してくれるの。

「伏見」

 俺のモヤモヤを消し去るかのような、剣先のような鋭さを含んだ声が、俺の思考を遮った。目の前を見ると、携帯端末から聞こえる声に傾けていた彼女の神経は、俺の方に一点集中しているらしかった。
「チッ、なんすか」
 俺をみてくれてる。…なんて、見当違いなことを思いながら、俺は嬉しさを隠すため、舌打ちをした。
「なんすか、じゃないわ。さっきから貴方、全然手が動いていないようじゃない」
「さっきから、って。見てたんですかぁ?」
 あんたは俺じゃなく、自分の崇拝する王しか見てないくせに。さっきだって、ここにはいない室長のことしか眼中になかったくせに。俺としては、副長への嫌味のつもりだった。
「見てたわよ」
彼女は、当たり前だろう?と、出来の悪い生徒に教えるように言った。
「確かに、さっきからずっと室長と話していたけど。でも、話しながらあなたを見ていたわよ」
「は?何で…」
「なんでって。私がこの部屋に入ってから、ずっと私の方を見ているんだもの」
 イヤでも気になるでしょう?とあんたは困ったような微笑みを浮かべた。
「何、すねてるの?」
「チッ、拗ねてません。すみませんでしたぁ」
 なんだか、見透かされているようで。俺がずっと、副長だけを見ていたことも気づかれていて。俺とたった3歳しか違わないくせに、とても、子供扱いされて。
 やっぱ、ほんとの意味で俺を見てほしい、と思った。


作品名:俺だけを。 作家名:namo