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迷子探しの名人

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 さて、どうしようか。
 部屋の扉から出たところで、ふむ、と考える。
 試しに向かい側の扉を叩くが、返事がない。
 いや、だからって、居ないとは限らない。
 居留守、とか。
 いやいや、とっくに確認された後だろうし……。
 アンディの自室は。
 っていうか。
 ガチャッと扉を開いて部屋の中をぐるりと見回す。
 いない。
 当たり前だ。
 ウォルターは納得して扉を閉めた。
 居そうなところを捜して簡単に見つかるようならばそれは『迷子』とは言わない。
 言えない。
 だったら自分も『捜してくれ』とは頼まれないだろうし。
 まぁ『捕まえろ』とも言われないはずだが。
 ……だとしたら、ずいぶん積極的な迷子になってしまうのだけれど。
 天を仰いで『はあー……』と大きなため息を吐き、ついでうつむいてぽりぽりと頭をかく。
「さーて、どうするかな……」
 事の発端は、帰ってきたアンディの怪我にモニカ秘書官が気が付いたことだった、……らしい。
 大したことのないそれを、それでも心配したモニカが医務室に行くようにと口に出したとたん、アンディが逃げ出した。
 そして、戻らない。
 慌てたモニカから話を聞いたウォルターは、なんだそりゃ、と思った。
 逃げ回っているんだろう、見つからないのは当然だろう、……というところだが、誰もその姿を見ていないし、見つからないし、一向に出てこないしで。
 つまりこれは『戻ってこない』のではなく、『戻ってこられない』……迷子、なのではないかと。
 そしてウォルターにアンディ捜索の出動命令が出された次第。
 ウォルターはやれやれとぼやく。
「アイツ本当に医務室ダメだよな……」
 注射でもなく、ただ怪我の治療というそれだけでも、逃げ出すとは。
 心配していたモニカ秘書官をさらに心配させて。
 だが。
 そうも思うが、こうも思う。
 もう少しうまくやれよ……。
 苦い思いはモニカ秘書官に向けられて。
 相手はこどもなんだから、『医務室』の言葉を出さずに、うまくだまして……。
 そう、たとえば、自分だったら……。
 ……どうやってだますんだ。
 はたとそれに思い至ったが、まずはともあれ、アンディを見つけることが先決だ。
 自分で戻ってこられない場所ということは、アンディの知らない場所で、誰も見ていないということは、人の少ないところだ。それはそう多くない。この『巣』の中では。
 人目につかなく移動できて、部屋から遠くて、アンディの知らない場所……の方向に行けば、見つけられる、多分。
 問題は対象が現在も移動中している可能性が高いということで。
 後は運だ。
 まぁ、運命とか、ってか、それって赤い糸とか……?
 思わずブッとふき出しそうになる。
 慌てて首を振り、顔を引き締める。
 どうも真面目になれないこの状況。
 まぁ、移動中なら、見かけた人が出てくるだろうし……。
 何はともあれ、ここだと思う方向に走るしかない。
 ウォルターはダッと駆け出した。





「アンディ……」
 ほどなくしてアンディを見つけた。
 おい、ホントに赤い糸かよ、なんてまたふざけて思う。
 それと同時に、アンディもウォルターを見つけた。
 逃げていたことも迷子になって忘れたのか、きょとんとしている。
「ウォルター……」
 見ると、包帯を巻いているのだろう、少し膨らんだシャツの二の腕の部分が赤く染まっている。
 自分で片手で適当に巻いたのだろう。
 これは確かに巻き直してもらったほうがいい。
 できれば医務室で。
 アンディは『ここはどこ?』状態でぼんやりとしている。
 今だ。
 ……さて、どうやってだまそうか。
 まだ考えていなかった。今がその時だというのに。まあ、相手はこどもなんだし……。
 こども。
 ウォルターは、近付いてきたアンディに、にこりと微笑みかけた。
「アンディ、飴あげるからさ、ちょっと俺について来いよ」
 『えっ』とアンディがピタリと動きを止める。
 そして、じりじりと後ろの方へ退き始めた。
 目は疑うように細められて、嫌そうに顔をしかめて。
「……何それ、人さらい?」
 ウォルターは『えっ』と笑顔を強張らせる。

 ……大失敗のようだ。





(おしまい)
作品名:迷子探しの名人 作家名:野村弥広