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Wizard//Magica Wish −5−

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「くか~…すぅぅ…」

「…っ…痛…」


午前10時過ぎ、ハルトは目覚めの悪い起床を迎えた。
ハルトは昨晩ソファで寝ていた筈だが、何故か杏子の寝ている布団に映っていた。自分はそこまで寝相が悪いという訳ではない。何故だろうか?
それはさておき、何故、ハルトの目覚めが悪かったというと、杏子の足がハルトの胸の上にドスン…と落ちてきたからである。どうやら杏子はハルト以上に寝相が悪いらしい。
ハルトは彼女を起こさないようにゆっくりと布団から起きてまず最初に洗面台へと向かう。軽く顔を洗ったあと近くにあったタオルで水滴が一つも残らないようにわしゃわしゃと顔を吹いた。
寝汗を拭き取ったハルトはキッチンへと向かう。杏子のために簡単な朝食を作ろうとしたが、その必要はなかった。この部屋の主、マミが沢山のフレンチトーストの山を作っていたのである。その皿のそばには彼女の置き手紙が置いてあった。

−寝すぎは体に毒よ?−

「ごめん、ありがとうマミちゃん」

ハルトはフレンチトーストの山から何個か摘み、ジャケットを着て外へと出た。杏子寝たままだが大丈夫だろう。


・・・


「うん、今日も良い天気だな」

何をしようか。
特になにもすることはない。いつものことだ。
マンションのエレベーターに乗り一階に降りる。
管理人におはよう、と一声かけ街へと繰り出す。
平日のため土日ほど人ごみはないが、それでもセールや安売り目的の主婦達や老夫婦で街は満ち溢れていた。ハルトは大手電気屋の中に入り電化製品を見つめる。特に目的はない。ハルトの目に店が映ったからだ。
ポケットに手を突っ込みぶらぶらと店内を歩く。洗濯機が無数に並んでいたり、照明コーナーの大量のLEDがとても眩しい。

「…お?」


−お母さん!仮面ライダーのベルト買って~!−
−駄目!そんなお金ありません!−


「仮面…ライダーか」


ハルトの目の前にはおもちゃコーナーがあった。
赤ん坊用の玩具から本格的な大人用のプラモデルまでずらりと並んでいる。
その一角でハルトはとあるものを目にした。仮面ライダーの変身ベルトだ。どうやら今の仮面ライダーはメダルを3枚セットしスキャナーで変身するタイプのライダーらしい。
ハルトは興味を持ち、周りの目を気にすることなくいじり始めた。
普段、何事にも無頓着な彼にとっては実に興味深いものだったのだ。


−タカ!トラ!バッタ!タ・ト・バ!タトバ!タットッバッ!!−

「これが仮面ライダーか。歌うとことか、なんとなくウィザードと似ているな」
「ねぇねぇお兄ちゃん、僕にも遊ばせてよ~」
「やだよ、今俺が遊んでるじゃん」

いつの間にか、その見本用のベルトであそびたいという子供たちがハルトの周りに沢山集まっていた。だがハルトはライダーのベルトに興味深々で周りの子供の意見なんて聞こうともしなかった。

「なんで僕より大きい兄ちゃんが遊んでるさ!」
「そ~だ!そ~だ!」
「触らせてよ~!」

「ありゃりゃ…いつのまにこんなに集まっちゃったな。…待てよ、今は俺もその『仮面ライダー』なんだよな。だったらこんなおもちゃ触っても意味ないじゃん」

「え?お兄ちゃん仮面ライダーなの?」
「そんな訳あるもんか!こんな酷い大人の人が仮面ライダーな訳ないよ!」
「仮面ライダーはかっこよくて優しい人がなるんだよ~」

「…ッ…そこまで言われると黙ってられないな。…周りに大人は…いない!よし、だったら見せてやるよ」

「「「え?」」」


「『ドライバーオン』プリーズ!シャバドゥビタッチヘンシーン!」
「変身」
「『フレイム』プリーズ!『ヒーヒー!ヒーヒーヒー!!』」

「…さあ、ショータイムだ」

「「「………」」」


ハルトは、自分より遥かに年下の子供たちの目の前でウィザードに変身してしまった。
魔女や使い魔が出た訳ではない。ただ、子供たちに自分が仮面ライダーだと証明したくて変身してしまったのだ。単なる意地である。
子供たちは目の前の男性が黒いローブを身にまとい、仮面を装着した姿へと一瞬で変身してしまったため、ぽかーんとしてしまった。

「どうだ?俺は本物の仮面ライダーだ!」

「「「………。」」」

「…な、なんだ?本物の仮面ライダーと会えて声も出ないのか?」


「…う…」
「ひッ…うぅ…」
「…う、あぁぁぁぁぁん!!おかぁ~さ~ん!!」




「…あれ?」

作品名:Wizard//Magica Wish −5− 作家名:a-o-w