SecretLove Road
マックの話はまだ続いている。
目の前の信号が赤に変わり、蒼紀は静かに車を停止させる。
「…だから、アイツなんてもうどうでもいいんだ」
マックは絞り出すような声でつぶやいた。
その声に蒼紀は横に座るマックの顔を見る。
彼の瞳から涙がこぼれようとしていた。
それを見た瞬間、蒼紀は思わず彼の腕を引き顔を近づけていた。
カーラジオからはまだ曲が流れ続けていた。
この車内には滑稽なほど不釣合いな、甘い恋の歌。
「…蒼紀」
互いの息が感じられるほど、顔が近い。
だが、口唇は触れ合ってはいなかった。
驚いた顔でマックがこちらを見ている。
「………………そんな顔、すんなよ」
蒼紀は困ったように笑ってぽんとマックの頭をなでた。
信号が青に変わり、顔を離した蒼紀は再び車を発進させる。
マックはそれ以上何も言わず、視線を蒼紀からそらした。
車内に再び沈黙がおりる。
「…本当は、仲直りしたいんだろ?」
蒼紀は何事もなかったかのように言った。
マックの顔を見ればわかる。
言葉ではどう言っていたって本当はそんなことこれっぽっちも思っていないことくらい。
「……うん」
マックも素直に応じる。
言えるわけない。
そんなマックに、自分の気持ちを告げることなんてできない。
友達の枠を超えることなど、できない。
「なら、謝らないとな」
蒼紀はそう言ってハンドルを切り、アクセルを踏み込んだ。
先ほどとは違い、今度は明確な目的を持って車を走らせる。
「でも…」
言いよどむマックに蒼紀は笑顔を見せる。
「アイツもきっと反省してるって。大丈夫だよ、心配すんな」
「……うん」
少しだけ頬を染めて見せる笑顔に胸が痛んだ。
車が目的地に着くと、マックは急いで車を降りる。
降りる間際に蒼紀を振り返った。
「蒼紀、ありがとう」
「いいから、早く行けよ」
「うん」
急いでアイツの住むアパートへ走っていく様子を見送り、前に向き直す。
否応なしに高まっていく鼓動を落ち着かせようと目をつぶって深呼吸する。
このまま。車を発進させろ。振り返るな。
しかしその思いもむなしく、蒼紀はアクセルを踏む前に振り返っていた。
マックがアパートの一室の前に立っているのが見える。
ドアが開いて誰かが顔をだした。
アイツだ。そう思った次の瞬間、アイツがマックを思いっきり抱きしめた。
鼓動がこれ以上ないほどに、音をたてたのがわかった。
アイツはマックを連れて家の中に戻っていく。
ドアが完全に閉じられた瞬間、蒼紀はハンドルに顔をうずめていた。
わかっていた。
自分の中で整理も納得もできていたはずだった。
でも、それでも。
この恋心は消えてはくれない。
この想いがいつか想い出に変わるまで、この気持ちは続くのだ。
蒼紀はゆっくりと息を吐いて顔をあげる。
今度こそ、振り返ることなくアクセルを踏み込んだ。
明日からまた、そしてこれからも、ずっと
君は遠い想い人。
作品名:SecretLove Road 作家名:今井鈴鹿