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星に願いを、君に想いを

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七夕の夜、遅く風呂に入り長屋に戻ると、回廊に八左ヱ門が座り空を眺めていた。回廊には明かりが灯され、その火に誘われるようにして羽虫が二匹、飛び回っている。兵助の足音に気付き振り向いた八左ヱ門がにこりと笑顔を浮かべた。
「お帰り、兵助」
昨日から任務に出ていて今日の夕方に戻りその後はずっと寝ていたので、久しぶりに八左ヱ門の顔を見た気がした。
「待ってたんだぞ」
そう言って八左ヱ門は自分の隣をとんとんと叩いて、兵助を呼んだ。
 吹く風は涼しいが湿気を含んでいて、気持ちのいい夜ではない。わざわざ部屋の外へ出て涼んでいたわけではないだろう。
「どうかしたのか、八左ヱ門」
促されるまま隣に腰掛けそう問い掛けると、八左ヱ門は自分の体の影から何かを取り出して兵助の方へ差し出した。それは短冊と、筆だった。
 ああ、そうか…。
 忙しくて忘れていた。今日は七夕だったのか…。
 気付いて見れば、長屋の柱に笹が括り付けられ、さらさらと風に揺れている。
「皆もう書いて、後は兵助だけなんだ。早くしないと終わってしまうぞ」
短冊と筆を押し付けられ、受け取る。笹を見上げれば、たくさんの短冊が付いていた。中に見慣れない字を見つけて、それをじっと見つめていると、八左ヱ門が「ああ」と隣で声を上げた。
「笹を運んでたらたまたま一年は組が通りかかってさ。書かせてやったんだ」
あいつらのお願い事はすごいぞ兵助、と八左ヱ門が目を細めた。
 山盛りの団子が食いたいだの、大金持ちになりたいだの、字が上手くなりたいだの、大きななめくじさんが欲しいだの…。
 八左ヱ門は言いながら指を折って数えていく。
「庄左ヱ門はさすがに真面目で、立派な成績を修められますようにって書いて、三郎を閉口させてたぞ。一年生ってもっと子供らしいもんだろうって嘆いてさ、面白かった」
あははと声を上げて笑う八左ヱ門に、兵助もその時の三郎の顔が容易に想像出来ておかしくなり、笑った。
「雷蔵は悩んで悩んで、結局五枚も書いたんだ」
「雷蔵らしいな。…八左ヱ門は何て書いたんだ?」
「俺?俺はまだ書いてない。一番最後に書くんだ」
下ろしていた足をよいしょと持ち上げて胡坐をかくと、八左ヱ門は兵助の手元を覗き込んできた。
 少し考えて、短冊に筆を置く。筆を走らせると、八左ヱ門がそれを読んだ。
「なになに…いつまでも…いつまでもずっと…」
面白そうに読んでいた声は、途中で黙ってしまい、兵助が最後まで字を書き終わってもそれを読み上げなかった。
『いつまでもずっと一緒にいられますように』
短冊に書かれた字を見つめていた八左ヱ門が、顔を上げてはにかむように笑った。
 誰と、とは書かなかった。長く過ごしてきた仲間と、そして誰よりも八左ヱ門と一緒にいたいと願った。
 顔を傾け、そっと口付けを交わす。触れるだけの口付けの後、八左ヱ門は照れたように顔を逸らして自分の短冊を取り出し、兵助から受けとった筆を墨に浸けるとその上に下ろした。
『皆の願いが叶いますように』
八左ヱ門は短冊に、大きく堂々とした文字でそう書いた。
 最初からそう書くと決めていたのだろう。迷いが無かった。
 全く、八左ヱ門らしい…。
 兵助は思わず笑った。
「結ぼう」
腕を掴まれ、立ち上がる。兵助は笹の中ほどに短冊を結んだ。八左ヱ門が天辺に結ぶというので、笹をしならせて持っていてやる。一番天辺の笹の葉に八左ヱ門が短冊を結びつけるのを待って、そっと手を離した。さらさらと音が鳴り、八左ヱ門の短冊が誇らしげに天に向かう。
「皆の願いが叶うと良いな」
星の瞬く空を見上げ兵助がそう呟くと、八左ヱ門が笑った。
「叶うさ。願えば何だって」
自信満々にそう言うので、兵助も笑った。
「好きだよ、八左ヱ門…」

星に願いをかけて、君といつまでもずっと、一緒にいよう。
作品名:星に願いを、君に想いを 作家名:aocrot