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菊枕

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「伊作」
大きな声と共に前振りもなく部屋の戸がガタンと開いた。毎度毎度小平太の乱暴な扱いに遭っている割には壊れたことがないので、案外頑強に出来ているのだろう、と外れそうで外れない戸を見ながら伊作は思った。
「どうしたの、小平太」
「虫に刺された」
そう言って、小平太は伊作の前まで来るとどかっと胡坐をかいて座った。背を向けるので、どこを刺されたのかと思えば、小平太はおもむろに上衣を脱いで、背に落ちる髪をかきあげて見せた。肩甲骨の下にぽつぽつと赤い斑点が出来ている。
「…毛虫を触らなかったかい?」
斑点にそっと触れながら訊く。
 痛いというよりは痒いのだろう。小平太がむず、と身体を捩らせる。
「金吾と木登りをしていたら背中に落ちてきたんだ。黒いやつだった」
「うーん…なんだろう…毒は無いみたいだけど」
「とにかく痒くてたまらんのだ。薬を塗ってくれ」
「そうだなぁ…」
立ち上がり薬箪笥の中から痒み止めの軟膏を探す。
「留三郎は?」
「委員会で用具室に行ってるよ。文次郎が壊した何かを修理するとか言って怒ってたけど…ああ、あった、これだ」
一番上の引き出しから軟膏を探し出し、手に取った。
 小平太の後ろに座って、もう一度斑になった肌を見る。肩甲骨の下だけかと思っていたら、脇腹のあたりにも斑点が広がっていた。
 そんなにひどくなさそうだな…。
 指で掬った薬を小平太の肌に乗せ、そっと伸ばしていく。その感触がくすぐったかったのか、小平太が身を捩って笑った。その所為で全く違う場所へ薬が伸びてしまう。
「こら、小平太。じっとしてないと薬が塗れないだろ」
「くすぐったい」
あははと笑って、小平太がごろりと寝転んでしまう。伊作の布団にうつぶせになって枕を抱え笑っている小平太の背中を、呆れながら手の平で押さえ込む。
「すぐ終わるから」
痛い治療を嫌がる一年生にするように、小平太を宥めながら薬を塗ってしまう。
「終わったよ」
手拭で指を拭いながら言った伊作に、小平太が寝返りを打った。笑った所為で目が少し潤んでいる。その目を指でごしごしと擦るので、伊作は「目が腫れるよ」と言って小平太の手を掴んだ。小平太が手の平を返し伊作の手を逆に掴まえる。そのままぐいと引っ張られて、小平太の上に重なるように転がった伊作の背をぎゅうと力強い腕が抱いた。
「…小平太、痛いよ」
呆れて文句を言えば、「大袈裟だな」と笑われた。
 大袈裟に言っているわけではなく、本当に背骨が軋んでいるのだが、それを伝えるのは諦める。
 自分の力の強さが分かってないんだからなぁ…。
 仕方なく溜息を吐いて、小平太の前髪を掻き分け額に口付けた。
「伊作」
「ん?」
名前を呼ばれ顔を上げれば、小平太は自分の頭の下にあった枕を抜き出し、二人の顔の間に持ち上げた。
「この枕、なんか良い匂いがするな」
「ああ…」
「何か入ってるのか?」
「菊枕だよ。菊の花が終わりそうだったから、保健委員会で作ったんだ」
「菊枕?」
「菊の花を乾燥させたものが入ってるんだよ。邪気を払う作用があると言われていて、…いたっ」
説明をしている伊作の頬を小平太が抓った。乱暴に枕を口に押し付けられ、驚いて小平太を見ると、悪戯をする子供のような顔をして笑っていた。
「伊作」
枕を放り出した手が、伊作の髪を引っ張る。
「そんなことより、しよう」
「そんなことよりって…小平太が訊いたんだろう…」
溜息交じりの言葉は乱暴にぶつかってきた小平太の唇に呑み込まれる。
「早く。留三郎が帰ってきてしまうぞ」
目を細めて笑うその笑顔に、そそられないわけではないけれど…。
 それにしたってもう少し色っぽく誘ってくれれば良いのに。
「………」
まぁ小平太に色っぽさを求める方がどうかしてるか…。
 伊作はまた溜息を吐いて、早く早くとせがむ小平太の身体を腕の中に抱き締めた。
作品名:菊枕 作家名:aocrot