雨の日
「…そうやって睨んでいたって雨は止まねぇよ、近藤さん」
いつまでそうしているのかと背中に声を掛けた。近藤は頭だけを少し回して土方を振り返り、「天気予報では夕方には止むって言ってたぞ」と不満げに言う。
「まだ夕方じゃねぇ。それに天気予報は外れることもある」
土方はそう言って読んでいた新聞を畳み机の下に放り込んだ。近藤が空に向け、長い溜息を吐き出している。
雨の所為か、部屋の中が湿気ている。茶碗の中の氷が溶けて、からりと澄んだ音を立て踊った。その音に近藤が膝を立て、土方の向かいに戻ってきて座った。机にべたりと頬をつけて拗ねたような顔をしていると思えば、大きな欠伸をするので笑う。
「…紫陽花を見たか?」
近藤の眠そうな目を見て、問うた。
「いいや?」
「もう蕾が付いているぞ。あれが雨を呼ぶのかも知れないな。紫陽花には晴天よりもやはり雨が似合う」
言えば、近藤が顔を上げて「それはそうだ」と少し笑った。
どうやら機嫌が直ってきたらしい。近藤はまたべたりと机に頬を押し付けて、目を閉じる。
「トシ」
「うん?」
「雨が止んだら起こしてくれ」
「…止まなかったらどうするんだ」
「一緒に紫陽花の蕾を見に行こう…」
言葉の最後は眠たげに揺れていた。顔を見れば近藤は既に眠っていて、しんとなった部屋に微かな吐息の音を響かせている。土方は手を伸ばし近藤の髪に触れると、手の甲で近藤の額に浮かんだ汗をそっと拭った。
曇り空からは雨が降り続けている。
土方は溜息を吐いて、近藤と同じように机に頬を付けた。吹く風は雨を含んでいるように重い。
紫陽花を見に行くなら、傘を用意しないとな…。
そう思って目を閉じる。茶碗の中の氷がまた、音を立てて踊った。