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人恋し

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外は風が強く吹いているのだろう。半分眠りかけていた意識が、風に震えガタリと鳴った雨戸の音に引き戻される。目を開ければ行灯の光の中で本を読んでいた土方が、ちらりと近藤を見た。
「春疾風だ。今日はずっとこんなだぜ」
そう言って、本を捲る。紙が擦れる微かな音が二度、三度、ゆっくりと続いた。
「…今何時だ」
「まだ八時だよ。…疲れてるんだろう。もう暫く寝てればいい」
「いや」
首を振って起き上がる。胡坐をかいて座った近藤に、土方が本を閉じて文机の上へと置いた。
 夕食の後、一杯やろうと土方の部屋を訪れたのだが、一杯も飲まない内にどうやらうとうととしてしまったらしい。酒が満たされたままの杯が漆の盆の上に残っていた。
「無理をするな、近藤さん」
片膝を立てて近藤に向き直り、土方が言う。着物が肌蹴け白い太腿が半ばまで露になる。いつ出来たのだろう。膝の内側に走った小さな切り傷と、膝小僧の擦過傷が見えた。
 土方が杯を取り酒を舐めるように飲む。暫くそうしていたが、近藤がそれを見ていると、やがて自棄になったようにぐいと杯を傾け酒を飲み干した。きつく瞼を伏せ、形の良い眉を顰める。そうしてゆっくりと瞼を押し上げると、濡れたような黒い瞳でじっと近藤を見た。
「…アンタも飲めよ。飲めば寝れるだろう」
ぐいと杯を押し付けられ受け取る。土方が瑠璃色の瓶を傾け、杯を酒で満たした。溢れ出した酒が近藤の着物の袖を濡らしていく。
 土方と同じように杯を傾け酒を呑む干すと、近藤は空になったそれを放り出して土方の腕を掴んだ。
 ごとりと重い音を立て倒れた瓶から酒が零れ畳に染みこんでいく。空気に溶け出した濃厚な酒の匂いに土方がふと眉を寄せた。
 絡み合う腕と、指。抗いは一瞬で終わり、近藤の身体の下に寝転んだ土方の手の平があやすように近藤の髪に触れ、首を抱いた。
「どうしたんだ、今日は」
アンタらしくない、と小さく笑う吐息が頬にかかる。
 風が吹く音が聞こえる。びゅうびゅうと、それはまるで誰かの唸り声のように雨戸を叩いて揺らした。
「こんな夜に一人は寂しいじゃねぇか」
土方の身体をぎゅっと抱き締めて呟けば、ふと笑う気配がした。土方の手の平が近藤の耳朶を掴む。促すように頬を摺り寄せられ顔を上げると、唇が重なってきた。
「アンタのそれは発情期だ」
笑いながらそんなことを言うので、ひどいじゃないかと言うと唇に噛みつかれた。ちくりと甘い痛みがあって、次いで柔らかな舌で舐められる。
「…トシ」
名前を呼べば土方は唇を歪めるようにして笑い、近藤の背をゆっくりと抱いた。
「春に人恋しくなるのはきっと、人がまだ獣だった頃の名残だろう…」
作品名:人恋し 作家名:aocrot