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Wizard//Magica Wish −7−

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5月の中旬過ぎ、まだ春の終わりも告げない内に気温がじわじわと上がり、少し前の時期には涼しかった気温も今では普通に歩いて汗をかく程、温度が上昇していた。夏が来るのはまだ当分先のことだ。ところが近年、地球温暖化という世界規模の大問題のお陰で季節の間隔がおかしくなってきている。昔から問題視されていたことだが今だに打開策は何も生まれず、ただ、人間は全てを時に任せ、日々何事もないように生活している。
私はまだ5月だというのに薄着をクローゼット奥から取り出し、紫外線が直接肌に当たらない程度の夏服を着て、病院へと向かっていた。7分丈のポロシャツに少々肌が出る程度のジーンズ。歩くたびに額から汗が流れ落ち、何度もバッグからハンカチを取り出し、汗を吸収させる。今日は例年と比べ、気温が高い日のようだ。本来この時期は雨が止まない日が続くのだが、先程に説明したとおり、季節が一段階ずれ込んでいる。そのため数日後には梅雨前線が来るらしい。

「ふぅ…暑いわね」
「そう?このぐらいなら暑いの部類には入らないよ」
「そうかしら。私が慣れていないだけかもしれないわね。…それよりあなたは毎回懲りず、なんで私に着いてくるの?操真 ハルト」

汗を流す理由には2つあった。1つ、まず5月にしては異常な程の高温。周りの人達もきっと同じことを考えているであろう。そして、2つ。毎回毎回、自分が定期的に通院しにいくたびにこの男、操真 ハルトが後をついてくるのだ。正直、病院へは一人で行きたい。何故彼はそこまでして自分についてくるのであろうか。いや、ただ単に暇なのだろう。今日は平日、正確には水曜日。一週間の折り返し地点でサラリーマンや学生が一番張り切る曜日といえよう。そんな日に私は休学し病院へと向かう。こればかりは決められているので仕方がないことだ。話が脱線してしまった。つまり、私が一番訴えたいということは、どうすればこの男を引き離すことができるのか、ということだ。ずっと考えていれば頭を回転することになるので熱が生まれる、ということである。

「しょうがないでしょ?今日は俺は非番で杏子ちゃんが見回り。杏子ちゃんが帰ってくるのは夕方だからそれまで俺一人で暇なの。」
「なら…おとなしく学校に登校しなさい。もしくは、本屋さんであなたの為になる書物を購入して巴マミの家で一日中勉強していると良いわ」
「学校は行かなくて良いんだよ。俺は頭良いし。ほむらちゃんはまだ中学生だからそんな余裕があるだけで、高校生になったら絶対にわかるよ」
「………。おほん、a>b,x>yの時、次の不等式『ax+by>ay+bx』が成り立つ事を証明しなさい」
「えっ…何?不凍液?」
「やっぱりあなた、学校行った方が良いわ。ちなみにこれ、あなたぐらいの年齢で出題される数学の基本中の基本の問題よ」
「へぇ、そうなんだ…あれ、もしかして ほむらちゃん。俺のこと馬鹿にしてる?」
「だれもそんなこと言ってないじゃない。第一、今の問題はあなたの歳で解けて当然の問題よ?」
「…っ…そういう ほむらちゃんは今の問題解けるの?まさか言いだしっぺが答えをしらないなんて…」
「仮定より、a-b>0,x-y>0。この時(ax+by)−(ay-bx)=ax+by – ay – bx=a(x-y)+b(x-y),=a(x-y)−b(x-y)=(a-b)(x-y) 仮定によりa-b>0,x-y>0だから(a-b)(x-y)>0、従って(ax+by)- (ay+bx)>0ゆえにax+by>ay+bx…これで良い筈だけど、どうかしら?」
「ごめん、中学生だからって完全に舐めてた」

そんな馬鹿な会話をしている間に、目的地である見滝原総合病院へと辿り着いた。ちなみに今だに操真 ハルトは先程私が出題した問題について頭を傾げている。…大丈夫よ。基本さえわかれば誰にでも解ける問題だから。
それより彼はまだ自分の後をついてくるつもりなのだろうか。毎度毎度話しているつもりだが、自分が受ける検査の中には服を脱がなくてはいけない物もある。ちょっとした手違いで看護婦が身内の人と勘違いして診察室や検査室に入れられても困るのだ。

「操真 ハルト。…念のため、また忠告するけれど…ここからは」
「大丈夫、今日はちゃんと目的があって病院に来た訳なんだから」
「目的?病院とは無縁なあなたが一体何を…」
「こらこら、真剣に考えない。あとちょっと失礼だよ。ただ、お見舞いに来ただけ」
「お見舞い…気づかない間にこの街であなたにも私達以外の知人ができていたなんてね」

「まぁ、偶然だよ…さて、お見上げのドーナッツも買ってきたし、喜ぶかなぁ~」


彼は、無邪気な笑顔を見せながら手元にあるドーナッツの箱を見る。彼の周りには事実上、男の友達といえる人物は存在しない。きっと、これから見舞いに行く人物は彼と同い年ぐらいの男性なのだろう。まぁ自分には関係のないことなのだが…。


「ふぃ~、今日も良い天気だな」

操真 ハルトは空を見上げる。…雲一つ無いというのに、これから長い長い雨が続くと言われても想像がつかない。彼は左手を自分たちの真上にある太陽に掲げ、中指に装着している指輪を輝かせた。


作品名:Wizard//Magica Wish −7− 作家名:a-o-w