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稽古から戻ると、客間に続く小さな部屋で土方が寝ていた。四畳ほどのその部屋は中庭に面していて明るい。障子紙を通して落ちる柔らかな西日が土方の頬を橙色に染めていた。
 近藤が部屋に入りその傍らに座り込んでも、土方は目を覚まさなかった。
 どうせ夜遅くまで出歩いていたのだろう。家には居ついたものの、ふらりと消える時間の方が多かった。どこに行くのだと問えば、別にと素っ気の無い返事があるだけで、暫くして戻ってきたと思えば怪我をしていたり、女の甘い匂いをさせていたりした。
 綺麗な顔をしているから、もてるのだろうな。 
 染みひとつない頬をささやかな嫉妬心を込めて見つめる。開いている時は冷たく感じる切れ長の瞳は、今は閉じられており、そうしていると意外に優しい顔になるのだと気付いた。
 長くしなやかな黒髪が畳の上に幾つもの弧を描き広がっている。
 近藤は土方のその長い髪を、剣を振るうのに邪魔だろうとそう言ったことがある。土方は願掛けをしているから願いが叶うまでは切らないのだと、そう言った。どんな願いだと訊けば唇の端を上げて笑うばかりで、何も教えてくれない。ただその話をする時だけは良く笑った。
 近藤は手を伸ばしそっと土方の髪に触れた。一房掴んで持ち上げると、それを感じていたように土方の目がゆっくりと開いて近藤の顔を見上げた。
「ああ、すまん。起こしたか」
慌てて髪を離し、謝る。土方は黙ったまま、髪の生え際を指先で引っ掻くと、そのうちにぽつりと言った。
「…夢を見ていた」
「どんな夢だ」
訊けば、ふと目を細めて笑った。
「アンタには教えない」




随分と昔の夢を見た…。
 まだ薄暗い夜明け前の天井を見上げ、近藤は溜息を吐いた。一緒に眠りについたはずの土方は今は布団を這い出すようにして、煙草を燻らせている。その横顔は夢の中と同じで、染みひとつない。
 あの頃の土方は家に住み着いた野良猫のようだった。気が向いた時にふらりと居ついては飯を食って、寝て、時折近藤の話し相手になり、そうしてふらりと出て行っては三日、四日戻らないこともあった。
 土方は勘の良い男だ。あの時既に時代の節目というものを感じ取っていたのだろう。いざ真選組を立ち上げようと近藤が腰を上げた時には、土方は驚くほどの情報を惜しみなく近藤に与えた。ふらりといなくなる度、土方はそうした情報を探っていたに違いない。
 土方がいなければ果たして自分はどうなっていただろうか。時代の波に揉まれ、ただの藻屑と化していたかも知れない。
「…なんだ起きたのか、近藤さん」
不意に土方が振り返って言った。白い肩に近藤が悪戯に残した引っ掻き傷がある。薄紅のそれに触れて、それから項にかかる土方の後ろ髪に触れた。
「もう伸ばさないのか」
訊くと、土方は煙草を灰皿へ押し付けて潰し、近藤の方へ身体を傾けてきた。少しひやりとした腕が近藤の頬に触れる。
「あれは願掛けで伸ばしてたんだ」
「もう良いのか。願いは叶ったのか」
「…なんだかしつこいな」
土方が眉を上げる。伸し掛かってくる身体を、近藤は両手で抱き留めた。土方は近藤の鼻に何度か噛み付くと、その後でゆっくりと近藤の唇を塞いだ。
「俺の願いはアンタが全部叶えてくれた」
囁くようにそう言って、土方は目を細め笑った。
「好きだよ、近藤さん」
作品名: 作家名:aocrot