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神鳴り 九月四日

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空を覆った灰色の雲からぽつぽつと降り始めた雨が、地面に歪な水玉模様を描いていく。少し先を行っていた土方が空を見上げ「こりゃ、ひどくなりそうだな」と嫌そうな声を上げた。土方の言う通り、雨足は徐々に早くなり、そのうちにざぁざぁと音を立て地面を叩き始める。待たせてある車まではもう少しの距離だ。「早くしろ」と近藤を急かす土方の後を追って大股に階段を駆け上がろうとしたその時、空が白く光った。思わず首を逸らして見上げた空が、ゆっくりと回転していく。慌てたように自分を呼ぶ土方の声に重なるように、遠く雷鳴が轟いていた。




『…各地で雷による被害が報告されています。明日も突然の雷雨にご注意下さい。…それでは明日、四日の全国の天気予報です。江戸は三十度を超え真夏日となるでしょう…』
ぼんやりと聞こえてくる天気予報の声。瞼の隙間からちらちらと差し込む光に、近藤は目を覚ました。光と声はテレビから漏れてきているようだ。画面の青い光を反射している天井に出来た、猫の形にも似た小さな染みを見つける。首を動かそうとすると後頭部が鈍く痛んで唸ると、「起きたのか」と鮮明な声が聞こえた。ずり、と膝で畳を擦る音が頭の近くで聞こえ、土方が顔を覗き込んできた。
「…俺、もしかして雷に」
「そんなわけあるか。階段踏み外して派手に転げ落ちたんだよ」
土方は呆れたようにそう言って、手にしていた煙草を、自分の膝元へ引き寄せた灰皿へ押し付けて消した。
「頭にでけぇたんこぶが出来てるから、しばらくは痛むぞ」
「…今何時だ?」
最後に時計を見た時はまだ夕方の六時だった。土方はちらりとテレビを見やり、「もうそろそろ日付が変わる」と言った。
 外はまだ、雨が降っているのだろう。バラバラと雨戸を叩く雨音に混じり、時折地を震わせるような雷鳴が聞こえていた。
「もうしばらくそうしてろよ。検査では異常は見つからなかったが、頭を打ってるんだからな」
心配している様子でもなく土方は素っ気無く言うと、また、ずりと膝を擦って近藤に背中を向けた。
 行灯の明かりの中、土方は文机の上に広げた横長の紙に筆を走らせ、何やら書きもの始める。少し書いては、文机に肘を着き、新しく火を点けた煙草を吸う。土方が吐き出した煙が踊るように揺れながら宙に散っていくのを、近藤はぼんやりと見つめた。
 ニュースが終わり、テレビ画面がCMに切り替わる。土方がふと頬杖をついていた顔を傾け、テレビを見た。そのままじっとCMを見ているので、近藤も釣られてテレビを見ると、新しく販売された車のCMだった。
「欲しいのか」
そう訊けば、土方は近藤に横顔を向けたまま、「いらねぇよ」と言った。それから、「あんたは」と言った。
「うん?」
「なにか欲しいものはないのか」
ぽつりと訊かれて、
「俺も車はいらねぇなぁ…」
そう答えた。土方は微かに喉を鳴らして笑うと、ちらりと近藤を流し見た。
「そうじゃねぇ」
CMが終わり、歌番組が始まる。テレビから溢れ出す、虹色の光。その柔らかな光の渦の中で、土方は仕方ないように笑って片方の眉を少し上げて見せた。
「もう四日だ、近藤さん。誕生日、おめでとう」
からかうように言われ、「ああ」と間の抜けた声が出た。
 すっかり忘れていた。それに、
「転んで頭打ったし、雷鳴ってるし、誕生日だってのになんか幸先が悪ぃな」
情けない声でそう言うと、土方は「そうか?」と言って、伸ばしてきた手で近藤の額を撫でた。ひやりとした手の平が離れていった後に、ゆっくりと唇が押し当てられる。
「空の神様もきっと、あんたの誕生日を祝ってくれてるんだろうよ…」
土方は囁くようにそう言うと、目を細めて笑った。
作品名:神鳴り 九月四日 作家名:aocrot