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九月某日

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朝夕に吹く風が大分涼しくなってきた。今年の夏は暑さが厳しく、屯所の庭に咲いた芙蓉もなんとなくしおれて見える。夜になったら水でも撒いてやろうかと、煙草片手に眺めていると、門の方へ車が停まった音がして、やがて近藤が廊下をやってきた。何か良いことでもあったのだろう。調子の外れた鼻歌が聞こえてくる。
 そういえば…明日は近藤さんの誕生日か。
 この年になって誕生日など嬉しいものかと思うが、近藤は毎年嬉しそうにしている。
 ああ、どうしようか。忙しくて何も用意していない。
 給料が出るようになってからは毎年、何かしら贈り物を用意している。近藤が土方の誕生日に必ず贈り物を用意しているので、土方としては仕方なくといった感じだ。
 約束をしているわけではないが、無ければがっかりするだろう。
「トシ、帰ったぞ」
「早かったな。会議はどうだった」
「いつもの通りだ」
肩を竦めて応えた近藤が風下へ座ったので、灰皿に煙草を押し潰して消した。それを見て近藤が笑う。
「いつもの通りか。そりゃ良かった。今回も特別会計は下りそうにないな」
「むしろ削減されそうな勢いだったぞ」
「仕方ねぇ。何か他の方法を考えるさ」
「犯罪にならねぇ程度にしてくれよ」
部下の不始末で本部に呼び出された過去を思い出したのか、眉を下げ情けない声を出したので、笑ってしまう。
「笑い事じゃねぇぞ」
「すまん。アンタがそんな顔するから…」
拗ねた様子で、手足を投げ出し寝転んでしまった近藤に「悪かったよ」と謝る。近藤は転がった勢いで伸びをした腕を枕にして、斜めに土方を見上げた。
「…夕立が来るぞ」
「うん?」
「あっちの空に立派な入道雲があったからな。そのうちに降り出すだろう」
「そうか…」
風の向きが変わった。煙草を取り出し、火を点ける。近藤は呆れたようにそれを見たが、何も言わなかった。
 土方が吐き出した紫煙が緩やかな風に流され、散っていく。ゆっくりと一本を燃やし終えたところで、吹く風に細かな雨粒が混じり始めた。薄暗くなった空が光り、空を見上げていると遠く雷鳴が轟くのが聞こえてくる。雷鳴を聞いたのだろう。若い隊士が廊下を走ってきて板戸を閉め始めた。
 近藤が起き上がり、煙草を消した土方の腕を引く。薄暗くなった廊下から部屋に移動した。部屋の襖を閉めた途端、回廊の板戸を激しく叩く雨の音が聞こえてきた。
「トシ」
名前を呼ばれ振り向くと、いつの間にか傍に来ていた近藤に口付けられる。霧雨に当たった所為だろうか。近藤の身体からも雨の匂いがするような気がして、目を閉じた。
「…アンタ、明日誕生日だろう?」
口付けの合間にそう言うと、近藤が嬉しそうな顔をして笑った。
「覚えてたのか」
「さっき思い出した。…何か欲しいもんがあれば、買ってやるぞ?」
「欲しいもんねぇ…」
ぽつりと呟いて、土方の唇の端を吸って離れていった唇が耳朶を食んだ。
「お願いごとなら、あるぞ。トシが、今日はもう仕事を終わりにして明日の朝までずっと、俺の傍にいてくれること」
耳の中へ直接囁かれた声に背筋が震えて、顔を離す。近藤を見れば、悪戯をした後の子供のような顔をして土方を見ていた。
「…そんな簡単なことなら、いつだってやってやる」
土方が呆れて言えば、近藤は冗談めいた声で「じゃあずっと傍にいてくれ」と言った。
 アンタは馬鹿だな、と土方は笑った。
「そんなことを言うと、本気にするぞ」
そう言って、何かを言おうとして開いた近藤の唇に、唇を押し付けて言葉を奪った。近藤が仕方ないというように笑って、土方の体を抱き締めた。
 外はまだ雨が降っている。雨が止んだ後には綺麗な夕焼けが見えるだろうか。それとも星空か…。
 たまには仕事のことを忘れて二人でゆっくり空を眺めるのも良いかも知れないと、土方は思った。
作品名:九月某日 作家名:aocrot