惰眠
室内の温度が上がるまで布団を出るのはよそうと思い、昨日の夜脱いだまま枕元に放ってあった羽織の袖口を探った。指先が四角い箱を探り当て取り出す。持ち上げた軽さに土方はちっと舌打ちをした。
どうやら昨夜寝る前に吸った一本が最後だったらしい。諦め悪く箱を振ってみたが当然煙草が転がり出してくることはなかった。
まだ部屋は暖まっていない。寒い廊下に出て自分の部屋まで煙草を取りに行くのも嫌だが、どうも口が寂しくて落ち着かない。少し苛々として煙草の箱を部屋の隅に投げ捨てたのがいけなかった。ガコンと思いの外大きな音を立て襖に当たったそれに、隣でいびきをかいて寝ていた近藤が「なんだ」と低く唸った。
「…煙草が無くなった」
そう答えると、呆れたような溜息が返ってくる。
「寝煙草はやめろよ、トシ。この間だって枕焦がしてただろう。そのうち火傷する」
半分寝ているような不鮮明な声が説教をした後に、今何時だと訊くので時計を確認した。まだ五時半にもなっていない。
「まだあと一時間は寝れるぜ、近藤さん」
「そりゃありがたい」
欠伸交じりに言った近藤の腕が土方の腹に回った。太い腕に抱き寄せられ、肩口に近藤の顎が乗せられる。固い髭が首筋を撫でる感触に背中が震えた。
近藤の大きな手が臍の辺りに触れ、そこがじわりと暖かくなる。
後ろで近藤が身体を浮かせたのがわかった。肩越しにちらりと伺うと肱を立て、背後から土方を覗き込んでいる。
「トシ」
名前を呼ばれるまま上を向くと、ちゅっと音を立て唇を啄ばまれた。
朝からするのか、と思ったが近藤はそういうつもりではないらしく、ただ土方の唇に何度も唇をぶつけるような口付けをしてくる。
あまりにもそれが長く、終る様子を見せないので、だんだん気恥ずかしくなってきて「なんだよ」と口付けを避けて訊いた。近藤はまるで悪戯を咎められた子供のような顔で笑った。
「これなら口寂しくないだろう」
少しだけ得意げに言うので、土方も笑った。
「…口寂しくないが、鬱陶しい」
身体を反転させ、近藤の胸に凭れるようにして乗り上がり、お返しのように口付けをした。
濡れた音を立て舌を絡める口付けに、近藤が「トシ、トシ」と降参の声を上げる。
「…眠気がぶっ飛んだ」
呆然としたように言うので、笑った。
「たまには早起きもしとくもんだぞ、近藤さん」