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笑う

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彼岸が過ぎ、吹く風もすっかり秋めいて涼しくなった。蝉の声はいつの間にか絶え、秋虫の声に取って替わっている。
 夕闇の落ちた回廊をどすどすと歩いてくる足音に、土方はぼんやりとしていた意識を引き戻された。
 いつの間にかうとうととしていたらしい。指に挟んだまま火を点けずにいた煙草が、ひくりと震えた手から落ちて転がっていく。
 ああ、最近どうもまずい。年を取ったからだろうか。昔ほど無理が利かなくなっている。
 じんと痺れる目頭を指で揉んで、風に吹かれて回廊に転がっていった煙草を拾うために腕を伸ばした。
「トシ」
足音が突然止まり、障子の隙間から近藤が顔を覗かせる。手を踏まれそうな気がして浮かせた腕の先から、煙草はすり抜けるようにして庭の土の上へと落ちていった。
「…なんだ寝てたのか」
体を横たえていた土方を見下ろして、近藤が首を傾げる。
「いや。少し休んでいただけだ」
そう言って体を起こそうとすると、「そのままでいいぞ」と肩をぐいと押される。近藤は土方の前に胡坐をかいて座ると、にこにこと笑っている。
 何か良いことでもあったのだろう。
 まぁ、この男は特別何が無くても機嫌が良さそうにしている。年がら年中仏頂面をしている自分とは違う。気持ちの良い人間なのだ。
 悪戯をした後の子供のような目が土方を見る。何があったのか訊いて欲しいのだろう。話したくてたまらないというように、膝が揺れていた。
「…どうした。何か良いことでもあったか」
仕方なくそう訊くと、近藤はそれまで閉じていた唇をぱかりと開けて笑う。
「欲しかった刀が手に入った。目は付けてたんだが、なかなか値が張ってな」
ここ一月ほど毎日足を運んでやっと主人に値を下げさせたのだと、近藤は嬉しそうに言った。
 そういえばここ最近毎日のように夕暮れ近くなるとそそくさと出掛けていたな…。どこに行っているのか、どうせ女のところだろうとあまり気にしていなかったが、刀を見初めていたか。
「…この忙しいのに近藤さんが一月も通うとは、さぞかし別嬪なんだろう」
溜息混じりに言えば、近藤は「そうなんだよ」と大きな声を上げて頷く。
 小さな嫌味も、真っ直ぐなこの男には通じない。また溜息を吐いて、盆の上に置いてある煙草を取ろうと伸ばした手を近藤に掴まえられた。
 長い腕に巻き込まれ仰向けになる。近藤の大きな手の平が土方の頭を撫で、襟足を擽った。じゃれるように重なってくる体を仕方なく抱くと、近藤が土方の額に、額を擦り付けてきた。
「すごい綺麗なんだよ。澄んだ水のようでさぁ…。三日後、鞘の蒔絵が描き終わるらしい。そしたら迎えにいくんだ」
早くトシに見せたいなぁと、まるで本当に嫁でも迎えるかのようににやけて言うので笑った。
「今度こそ横っ面を叩かれて折ってしまわないよう気をつけろよ」
日に焼けた頬に触れそうからかうと、近藤は少しむくれて、それからゆっくりと顔を寄せてきて土方に口付けた。尖らせた唇の端を宥めるように吸って、土方は近藤の肩を抱いた。
「…少し妬けたぞ、近藤さん」
責任取ってくれよと笑いながら言うと、近藤がいいぞと応えて笑った。
作品名:笑う 作家名:aocrot