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秋の日

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九月も半ばを過ぎ、吹く風が少し肌寒く感じられるようになった。
 空を覆い始めた夕闇の中、見廻りから戻った土方は、一度自室に戻ると書類を持ち、回廊を近藤の部屋へと向かった。
 中庭に面した回廊には明りが灯り、薄暗闇の庭をぼんやりと照らしている。
「近藤さん、いるか」
声を掛け、人が一人通れるほどに開いた障子の隙間から部屋の中を覗き込む。すると、近藤は障子の方へ頭を向けた格好で、仰向けになって寝転んでいた。すっかり寝てしまっているのか、閉じられた瞳はぴくりともせず、返事は無い。
「………」
土方は一度、自分の手の中の書類と、近藤の寝顔を見比べると、小さな溜息をついた。
 仕方ねぇな…起きるまで待つか…。
 書類を机の上に置き、近藤の傍らに胡座をかいて座る。胸の煙草へ手を伸ばしかけて、やめた。
 近藤は煙草を吸わない。せっかく気持ちの良い風が吹いているのに、煙の匂いがすれば目が覚めてしまうかも知れないと思った。
 何もすることが無くなってしまい、土方はそっと近藤の髪へ手を伸ばした。指先で触れても、目を覚まさないのを見て、髪を撫でる。
 九月は何かと仕事が多い。最近休みなく働いている所為で、近藤は疲れているのだろう。
 いつもならば隊服のまま寝てしまうことなど、無いのに。
 近藤の呼吸に合わせて上下するシャツの胸元が窮屈そうに見える。
 触れたら起きてしまうだろうか、と思いつつ、土方は身を乗り出すと、近藤のシャツの釦に指を掛けた。ひとつ外したところで、くすぐったかったのか近藤が「うん」と声を漏らす。一瞬、眉間にぎゅっと皺を寄せたかと思うと、ぼんやりと目が開いた。
「…すまねぇ、起こしたか」
近藤の顔を見下ろして、囁く。
「まだ夕飯まで時間があるから、寝てろよ」
そう言った土方の顔に近藤の指が触れた。乾いた感触の指先が唇に触れ、手の甲で頬を撫でられる。
「トシ…」
呟かれた声は、寝起きで掠れていた。
「うん?」
「金木犀が咲いたかな…」
「どうかな」
「匂いがする」
「そうか。もう秋だから咲いているかも知れねぇな」
土方の応えに、近藤は満足そうな溜息をついて、目を閉じた。
「夢を見たんだ…」
「そうか」
どんな夢だったかは訊かなかった。近藤も、夢の内容を言う気は無いようで、ただ伸ばしてきた腕で土方の顔を引き寄せ口付けを強請った。
「トシ」
「うん」
「今日は月が綺麗に見える」
触れる寸前で、蠢いた唇がそう告げた。
 気付けば障子の隙間から見える空はすっかり暗闇に包まれ、白々とした月が浮かんでいた。
「もう秋だからな…そろそろ月見の用意でもするか」
そう言うと、途端に近藤が嬉しそうな顔をして笑ったので、土方は小さく笑った唇で、近藤にそっと口付けた。
作品名:秋の日 作家名:aocrot