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守られる花、守るもの

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寒くなり始めた頃、山崎が見様見真似で作った藁苞の中で寒牡丹は健気に背を伸ばし咲いていた。この寒いのに、よくもまぁ綺麗に花開いたものだ、と土方が感心していると、熱燗をやりながら近藤が「寒牡丹は白に限る」と呟いた。
「紅色もなかなか綺麗だが、やはり白が良い」
少し酔っているのか、嫌に機嫌が良い。まぁこの男は酔っていなくても大概は気分良く過ごしている。
 心が広いのだ。
「近藤さん、そろそろ中に入らねぇか」
日が傾き、吹く風も冷たくなってきた。夕空を烏が一匹横切って飛んでいく。その鳴き声に釣られるようにして立ち上がると、土方は近藤の手から猪口を奪い「行こうぜ」と促した。
「いや、俺はもう少しあの牡丹を見てから行こう」
「風邪引くぜ」
「そんな軟じゃねぇよ」
そんなことを言うので、それならば付き合おうとまた隣に胡座をかいて座る。近藤は「寒いなら先に戻っておけ」と笑ったが強がって「寒くねぇよ」と言い張った。
 熱燗は冷め、舌に温い。それでは暖を取ることが適わず、寒さに眉を顰め猪口の中身をぐいと飲み干した。
「…近藤さんが花好きとは知らなかったな」
なんせ屯所に戻ってきてからこうしてずっと牡丹を眺めて、酒を呑んでいるのだ。屯所の庭には梅も椿も咲いている。それには見向きもしない癖に、牡丹の花が咲いてからはそれが見える縁側が近藤の指定席になった。
「そんなに好きなら折って部屋に飾れば良い」
「アレはあそこにあるから良いんだ、トシ」
「そうか。俺にはよく分かんねぇな」
「分からんか。そうだろうなぁ」
近藤が楽しそうに笑うので、チッと舌打ちをした。
 会話が途絶え、しばらく沈黙が続いた。互いに酒を注ぎ足し、ただ寒牡丹を眺める。肩が触れるか触れないかの距離に落ちる沈黙は心地良かったが、とにかく寒い。酒も最後の一滴まで舐めるように飲み、もう我慢がならず立ち上がろうとしたところで、近藤が「なぁ」と声を上げた。
「あの花はお前に似てると思わんか」
「…あぁ?」
急に何を言い出すのかと、怪訝な声を出し、土方は立てかけた膝を戻した。
「厳しい寒さの中、背筋を伸ばして目一杯花弁を開いて。堂々としてやがる。雪が降っても背を丸めねぇ」
お前の後姿と似ている、と言われる。
 花と似ていると言われ果たしてどのような反応をして良いものか一瞬悩み、土方は「そうか」と曖昧な返事をした。
 だが寒牡丹が真っ直ぐに立ち花開いていられるのはあの藁苞があるからだ。あれが無ければ寒さにやられ、雪に潰されてしまうだろう。
 自分が寒牡丹なら、近藤は藁苞だろう。腕を広げ、居心地の良い場所を作ってくれる。近藤がいるから自分は真っ直ぐに立つことが出来る。
 そう言ってやろうかと思ったが、声が出るよりも先に妙に気恥ずかしくなって止めた。
 それではまるで、近藤は自分を守る為にここに居るようではないか。そうではない。この男は全てを守る為にここにいるのだ。
「…近藤さん、そろそろ部屋に入ろう。寒い」
寒さに痺れた膝を立て促す。少し残念そうに、だがさすがに寒さが身に染みてきたのか近藤は素直に立ち上がった。
「枯れてしまったら悲しいな」
「そうだな。でもまた来年咲くだろう」
来年は近藤さんが藁苞を作ってやればいいと言うと、近藤は土方の言葉に大きく頷き、きっと自分なら山崎よりももっと上手いのを作ると豪語して見せた。
「アンタなら、きっとそうだろうよ」
土方は笑い、障子をそっと閉めた。
作品名:守られる花、守るもの 作家名:aocrot