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初雪

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冬の日の朝は誰かが雨戸を開けていく音で始まる。ガタガタとやっているのは立て付けが悪い所為だ。
 いい加減直さないと煩くていけない。
 土方は寝返りを打つと、枕元に置いてあった盆から煙草を取り火を点けた。深く吸い込んだ煙をゆっくりと吐き出す。そうするとようやく意識がはっきりとしてきた。
 白んできた空から差し込む光が障子を透かし部屋に差し込んでくると、それと同時に冷気が部屋に忍び込んでくる。段々と指先が冷たくなってきて、土方は半分ほど燃やした煙草を灰皿に押し付けて消した。
「…今朝は随分冷えるな」
廊下を行く隊士に声を掛ければ、障子の向こうで立ち止まった影が土方の部屋の前へと屈み込んだ。
「おはようございます。雪が積もってますよ、副長」
「そうか」
影は一礼をしてまた立ち上がり、雨戸を開けながら去っていく。
 夜に降っていた雨が、いつの間にか雪に変わったのだろう。
 冷えるはずだ。どれくらい積もっているのだろうか。あまり積もっているようならば出番前に門前の雪掻きをしなければならない。
 土方は布団を出ると羽織を取って肩に掛け、障子を開けた。
 庭を見れば一面が白に染まっている。その白銀の上にぽつぽつと足跡が残っているのを見て、土方は「ああ」と小さな溜息を吐いた。吐き出した息が宙で白く染まり消えていく。
 足跡の主はすぐに分かった。数歩回廊を行き近藤の部屋を覗き込むと、やはり抜け殻になった布団だけが残されている。
 今年は雪が遅いなぁ、トシ。
 子供のような顔をして、そんなことを言っていたのは一昨日の昼だったか。
 全く…雪くらいでガキみてぇにはしゃぎやがって。この寒い中どこをほっつき歩いているんだか。
 仕方なく、雪駄を引っ掛け雪の上に降りる。サク、と新雪が足の裏で押し潰される軽やかな感触があり、土方はふとそれに足を止めるとゆっくりと踏み出した二歩目は近藤の足跡を踏んだ。
 足跡はうろうろと庭を歩き回り、井戸をぐるりと一周して、表門の方まで続いていた。時折足跡がひどく乱れているのは近藤が雪を蹴散らかして歩いたからだろう。
 足跡を追って門に続く角を曲がると、近藤の背中が見えた。背を屈め手水鉢の中を覗き込んでいる。
「近藤さん」
声を掛けると、近藤は顔を上げ笑った。
「トシ、雪だぞ」
寒さに赤く染まった頬を綻ばせ、大声でそんなことを言うので呆れる。
「そんなの見りゃ分かる。…ったく、何やってんだアンタは。顔が猿みてぇに真っ赤じゃねぇか」
「そうか?」
近藤は首を傾げ、髭の生えた顎を手の平で撫でた。
 見れば羽織の袖も、着物の裾も雪に濡れている。髪にも雪が乗っているのを見て、土方は溜息を吐いて近藤の髪に触れた。雪は土方が触れると手の中で半分崩れ、溶けて消えていった。
「これだけ積もればすぐには溶けねぇだろう」
冷え切った近藤の頬を叩くように手の平で触れて、とにかく部屋に戻ろう、と促す。近藤は少し残念そうな顔をして、それでもやっと寒さを感じたように身体をぶるりと震わせると素直に土方の隣へ並んだ。
 しっとりと濡れた着物の袖の陰で、近藤の冷たい指先が土方の手に触れ、暖を求めるように絡んでくる。土方は呆れて笑いながらそれをそっと握り返した。
「どうせこれではすぐに仕事ってわけにはいかねぇ。雪遊びなら後で総悟とすればいいさ」
ついでに雪掻きも頼むぜ近藤さん、と言うと、近藤は胸を張って「任せとけ」と笑い、その後大袈裟なくしゃみを三回繰り返した。それに反応したように松の木の枝に積もった雪がとさっと柔らかな音を立てて落ち、飛び散った雪が太陽の光に反射して輝く様に土方は目を細めて小さな息を吐いた。
作品名:初雪 作家名:aocrot