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キスをしよう、この素晴しい日々に

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夕方六時。部屋に戻ってきた音也の手にサッカーボールほどの、カボチャが四つ抱えられていた。カボチャはプラスチックで出来た容器のようで、顔が描かれている。そういえば今日はハロウィンだったかと、トキヤは今更のように思った。
「…何ですか、それは」
「レンとマサから貰った。翔と那月も貰ってたよ」
音也はずかずかとトキヤに近付いてくると、プラスチックのカボチャをダイニングテーブルの上へ下ろした。カボチャがテーブルの上を転がりそうになり、トキヤは仕方なく読んでいた雑誌を閉じてそれを引き寄せる。
「これはトキヤの分だって」
色違いのふたつをトキヤの方へ押しやって、音也は向かいの席に座った。自分の分のカボチャを二つ並べて、「こっちがマサからで、こっちがレンからだよ」と説明しながら蓋を開ける。
 真斗からのカボチャには、子供の好きそうな飴やクッキー、チョコレートがぎっしりと詰まっていた。レンからのカボチャには、高級そうな焼き菓子とチョコレートのセットが入っている。どちらも、らしい演出でトキヤの笑みを誘った。
 お祭りごとの好きな音也と翔が、お菓子を欲しがると思って用意していたのだろうか。
 それにしても…甘いものが好きな那月はともかく、自分にも用意をしてくれたのか…。
 そう思いながら、自分の前にあるカボチャの蓋を開けてみる。すると、トキヤに宛てたカボチャの中身は音也のものとは違っていた。
 真斗からは日本茶の茶葉、レンからは珈琲豆。どちらも高級なものだと一目で分かる。
「…なんかもう、お菓子関係ないじゃん」
トキヤのカボチャを覗き込んで、音也が呟いた。
 そうなってくると、翔と那月が貰ったカボチャの中身を音也が気にしないわけがない。途端にそわそわし始めたのが分かり、トキヤは溜息を吐きカボチャの蓋を閉じて立ち上がった。
「聖川さんとレンにはお返しをしなければいけませんね。それに、四ノ宮さんと翔にも差し上げないと不公平でしょう」
トキヤの言葉に、音也が目を輝かせる。
「ねぇ、俺ね、駅前の店で可愛い飴を見つけたんだ。オバケの形をしたチョコもあったよ。それから…」
指折り数えている音也に上着を差し出す。
 この時期は昼間はまだ日差しがあり暖かいが、日が暮れると急に肌寒くなる。「大丈夫だよ」と言う音也を視線で促し、上着を着せ部屋を出た。
 寮を出て、駅までの緩やかな坂道を下っていく。
 音也は、那月がお菓子のお礼に真斗とレンにお菓子を手作りすると言い出して翔が怒っていたという話をして笑っていたが、その手作りのお菓子は私たちのところへもくるでしょうねと言うと、そんなの困るよと言って、腕を組み考え込むように黙ってしまった。
 皆に配るお菓子は音也のリクエスト通り、駅前にある輸入雑貨の店で購入した。選んだ菓子類をプレゼント用にと言って四つ、包んでもらう。
 包装の仕上がりを待っている間に、トキヤは店に入った時から音也が欲しがっていた、オバケの形をした大きな飴を買った。どうせ最後まで食べきらず途中で飽きてしまうだろうと分かっていたが、こんな日ばかりは良いだろうと理由を付けて、棒の部分へ簡単にリボンを巻いてもらい、店内で仮装用の服を見ていた音也に手渡した。
「ありがとう、トキヤ」
音也はぱっと笑顔を浮かべると、大事そうに飴を受け取った。
 プレゼントの包装が終わり、袋をひとつずつ持って店を出る。
「俺ね、ハロウィン祝うの初めてなんだ」
寮までの坂道を今度はゆっくりと上っていく途中で、音也が言った。
「日本ではまだあまり馴染みの無いものですからね」
そう応えてやり何となく音也を見ると、音也はポケットを探って取り出した何かをトキヤに差し出してきた。
 外灯の下に照らされたそれは、透明のセロファンに包まれたスプーンだった。先端を飾るカボチャのモチーフは王冠のようなデザインになっていて、深いブルーのリボンが結ばれていた。
 そのスプーンには見覚えがあった。先程の店に並んでいたものだ。
 どうやら音也も、店内で包装を待っている間にプレゼントを購入していたらしい。
「とりっくおあとりーと」
言い慣れない言葉をぎこちなく言った音也に、思わず笑う。
「それは、お菓子を貰いに行く子供が言う台詞ですよ」
トキヤが教えてやれば、
「あ、そうなんだ」
と照れ臭そうに笑った音也の顔は子供のように無邪気だった。
「何が良いか思い付かなくて…こんなのでごめんな」
そう謝った音也の手からスプーンを受け取る。
「ありがとうございます」
「…うん」
嬉しそうに目を細めて笑った音也の手の先で、ハロウィンのプレゼントの入った袋が柔らかな音を立て揺れる。空には綺麗な月が浮かび、細い雲が棚引いていた。
 不意に音也が顔を上げ、トキヤを見る。トキヤも音也の顔を見ていたので、正面から視線が交わり二人の間に生まれた濃密な空気に、音也が狼狽え視線を逸らしていく。音也らしくない態度に、トキヤはふと笑った。それが分かったのだろう。
「トキヤの馬鹿」
拗ねたようにそう呟いて、音也は軽く握った拳でトキヤの肩を小突いた。その手を掴まえ、一瞬だけ指を絡めて握り、離す。それが悲しかったのか、音也は自分の手をじっと見つめると「早く帰ろう?」とトキヤを誘った。
 トキヤの返事も聞かず、音也の足が逸る。先を急ぐその背中を溜息を吐いて追いかけながら、部屋に戻ったら一番最初に、音也にキスをしようと、トキヤはそう思った。
 柔らかな唇に、薄い瞼に。そしてふっくらとした耳朶に。
 ハッピーハロウィンと、囁いて。