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君の背中に寄り添うから

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夕暮れが近付き、風が強くなってきた。部屋に吹き込んでくる風に大きく膨らんだカーテンが翻り乾いた音を立てる。ダイニングテーブルに座り読んでいた台本から顔を上げると、トキヤはベランダの窓辺へ視線をやった。レースのカーテンの向こうに音也の姿が見える。ベランダに向けて置いた椅子に膝を抱えて座った背中が、小さく見える。どれほどそうしているだろうか…。お気に入りのヘッドフォンを着け、抱えた膝に頬を乗せるようにして顔を傾げた格好で。少し前まで気持ち良さそうな陽だまりになっていたその場所は、今は半日陰になっている。初秋の風はさらりとして冷たく、ふと音也の薄着が気になった。思えばこうして音也が大人しくしていることも珍しい。もしかして寝てしまっているのだろうか。それならば起こしてやらねば風邪を引く。そう思い立ち上がったトキヤに、音也がゆるゆると頭を上げた。音也は少し体を傾けトキヤを振り向いた。カーテン越しに視線が絡み合い、何か言うだろうかと思って待っていたが、音也は何も言わなかった。それどころかいつものような笑顔を浮かべることもなく、トキヤから視線を逸らしまた膝に頬を埋めた。不意に、音也が何を聴いているのか気になり、トキヤは背後から音也に近付くとカーテンを捲り、ヘッドフォンを取って自分の耳に当てた。いつも音也が聴いているような騒がしいロックが聞こえてくるのだろうと思っていたが、聞こえてきたのは自分の歌だった。意外に思いながら、音也にヘッドフォンを返す。音也は今度はにこりと笑って見せると、この歌好きなんだ、と言った。トキヤの声好きだよ、と囁いて少し寂しそうな顔をしたので、何故そんな顔をするんですかと訊けば、音也は戸惑ったように、わかんないと答えた。これさ俺と会う前の歌でしょ、と言われ頷く。俺ね、トキヤが誰を想ってこの歌を歌ったんだろうって考えたんだ。そしたらなんか、悲しくなっちゃった。大好きな歌なのにさ、なんか…なんか、よくわかんないけど…。言葉の最後は囁くように小さな声になって消え、音也はそれを恥じるように笑って抱えた膝に顔を埋めた。トキヤは溜息を吐いて、音也の髪を撫でその天辺へと唇を押し付けた。膝を抱えた音也の手を上から握るように、背中から音也を抱き締める。ヘッドフォンから聞こえてくる微かな音漏れ。プレイヤーの再生を停めて、音也の耳に唇を寄せる。息を吸って、先程まで音也が聴いていた歌を歌い始めたトキヤに、音也がトキヤの手をぎゅっと握る。トキヤは痛いほどに絡められた熱い指を握り返し、音也が顔を上げいつもの笑顔を見せるまでその耳に歌を届け続けた。
作品名:君の背中に寄り添うから 作家名:aocrot