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I wanna kiss you

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CM撮影で製菓会社から貰ってきた大量のポッキーを前に、寿嶺二がゲームしようと言い出したのは、夕飯を終えた午後八時。その日は面白い番組もなく、嶺二と音也は暇を持て余していた。会話のネタも尽き二人で肩を寄りかからせて静かにソファに座っていたので、トキヤはすっかり油断していた。
「私は忙しいのでゲームなら二人でやってください」
そう断り、読みかけの本を開く。音也は残念そうに「つまんないの」と声を上げただけだったが、嶺二の方は違った。
「いいじゃんトッキー。やろうよ。楽しいよ」
と、トキヤにまとわりついた挙げ句、腕を組んで「これは先輩命令です」ときたので溜め息を吐いた。
「それなら普段からもう少し先輩らしくして頂きたいですね」
素っ気無く返して、本のページを捲った。
「トッキーがそういう態度取るならこっちにも考えがあるぞ」
嶺二はトキヤの態度にふっと囁く。何を企んでいるのかと顔を見れば、悪そうな顔で笑っていた。
「ほら、僕って君たちの先輩だからさ。月に一度、事務所に指導報告書を出さないといけないんだよねぇ。いつも報告書には二人とも素直で聞き分けも良くとても良い子ですって書いてるんだけど、今回は違う報告をしないといけなくなるかな。先輩は悲しいよ」
嶺二はそう言うと、手の平で目を覆ってわざとらしい泣き真似をしてみせた。
 それがただの下らない脅し文句だとは分かっていたが、嶺二のしつこさは音也以上で、言い出したら聞かないことも分かっていた。それならば一度だけ、そのゲームとやらに付き合って、この面倒な時間をさっさと終わらせてしまった方が良い。
 仕方なく溜め息を吐いて立ち上がる。
「そうこなくっちゃ」
指を鳴らした嶺二に背中を押され、ソファに座ってテレビを見ていた音也の隣に座らされた。
「何のゲームをするの、嶺ちゃん」
音也はパッと顔を輝かせると、嶺二に尋ねた。
「おっと、音やんにはこれが見えないのかな?」
嶺二はテーブルの上に積まれたポッキーの箱を指差した。
 嫌な予感がする。
 そういった予感は必ずと言っていいほど当たるもので、トキヤが遮るよりも早く、嶺二がポッキーの箱を取り上げ頭上に掲げた。
「そこにポッキーがあったらやることはひとつ!ポッキーゲーム!」
嶺二によって高らかに宣言されたセリフに、さすがの音也も驚いたらしい。
「ええっ」
素っ頓狂な声を上げたまま、ぽかんと嶺二を見上げた。
「あぁ、下らない」
トキヤは額を押さえ呟いた声を聞き、音也が急に慌て出す。
「それって普通は女の子とやるものでしょ、俺たち男同士だし」
「ノンノンノン。男同士だって信頼があれば出来るはずだよ。これは二人がお互いをどれだけ信頼しているか確認するテストだよ、二人とも」
人差し指を揺らしながら、嶺二が偉そうに言う。
「何がテストですか。先程はゲームだと言っていましたよね。だいたい信頼度をはかるのならば他に違う方法があるでしょうが、全く…」
付き合っていられないと、トキヤが呆れて席を立とうとすると、嶺二が腕を広げて行く手を阻んできた。
「これは先輩命令だよ、トッキー」
そう言った嶺二は明らかにこの状況を面白がっている顔をしていた。
 ちらりと音也を見れば、とにかく狼狽えていて、そんなの出来ないとか、トキヤと嶺ちゃんがやれば良いとか、文句を言っている。にやにやしている嶺二と、焦っている音也を交互に見て、トキヤはまた深い溜め息を吐いた。
 嶺二を睨みながら、再びソファに座る。
「無理だって、トキヤ」
音也が両手を上げてトキヤを阻むようにしたので、「仕方がないでしょう」と叱った。
「だってさぁ…」
音也が困ったような声を出すので、視線で黙らせる。
 男同士のポッキーゲームどころか、音也とは何度も体を重ねたことのある仲だ。二人はそれを嶺二に秘密にしていたが、音也はとにかく素直で、態度に出やすい。嶺二の方はいい加減なようでいて、鋭いところがあり人間観察に長けている。
 一緒に暮らし始めてすぐ、嶺二は二人の関係に気付いたようだった。トキヤはそれに薄々気付いていたが、音也はまだ隠し通せていると信じている。
 だから、嶺二のこれは、トキヤに対する趣味の悪い悪戯だ。拒んだりすれば余計に面白がられるのが目に見えていた。
 嶺二がポッキーの箱を開け内袋の封を切る。そうして取り出した一本を、チョコの付いていない方を持って音也の口に咥えさせる。音也がひどく緊張していて、パキリと音が鳴ってポッキーが折れた。
「コラ、音やん。折ったら駄目だよ」
そう嶺二に叱られ、音也が「ごめん」と眉を下げる。
 トキヤは嶺二からポッキーを一本受け取り、音也の唇を開けさせた。
「あなたはじっとしていれば良いですから」
音也に告げ、ポッキーを咥えさせる。
「準備は良いかい?オッケーイ!ポッキーゲーム開始っ」
そう言って、嶺二が下品なヤジを飛ばし始めた。
 音也はトキヤをじっと見つめている。何故目を閉じないのかと注意したかったが我慢した。
 ポッキーの先が小さく揺れている。
「じっとして」
囁いて、トキヤはその先端を口に含んだ。
 元々そんなに長いものではないから、すぐに音也の顔が目の前にくる。そっと噛み進めていく内に、音也が耐えきれないように目尻を赤く染め、目を伏せて逸らした。
 その表情に、トキヤは音也と初めてキスを交わした時のことを思い出した。
 あの時も音也は目を閉じず、トキヤの顔を見ていた。何故閉じないのかと訊くと、だってトキヤの顔を見ていたいから、と言ったが、結局、唇が触れる寸前にぎゅっと目を閉じた。
 音也はそれが人生で初めてのキスだったのだろう。握った手が震えていた。
 チョコレートの甘い味が舌に広がっていく。あと数センチで音也の唇に辿り着く。もう良いだろうと、唇を離そうと思いトキヤが音也の肩を掴んだその時、
「おっとよろけたっ」
大袈裟な声と共に嶺二が背中にトンとぶつかってきた。
 気付いた時には、トキヤの唇は音也のそれに重なっていた。
 音也が驚いたように目を開く。
「これは不可抗力です」
トキヤは素早く囁き、嶺二を振り向いた。
「寿さん…あなたと言う人は…」
低い声で切り出せば、嶺二は素知らぬ振りで立ち上がりポッキーの箱をいくつか腕に抱え上げた。
「さぁて、ランランにポッキーあげてこよっかな」
そう言うと、嶺二は逃げるように部屋を出ていってしまった。
 仕方なく溜め息を吐き、音也に向き直ると、音也は顔を赤くしていた。ぎくしゃくとポッキーを咀嚼しているその表情を見て、つられたように気まずくなった。
「キスなどいつもしているでしょう」
呆れて言えば、音也は「だって」と子供のように言い返してきた。
「だって、トキヤと初めてキスした時のこと思い出しちゃったんだもん」
そう言って音也は照れたように笑った。まさか音也が同じことを考えていたとは思わず、トキヤは一瞬言葉に詰まると、それをどうにか溜め息に変えた。
「馬鹿ですね…」
囁いて、音也にキスをする。
 どうせ嶺二は暫く部屋に戻ってこないだろう。
 目を閉じ抱きついてきた音也の体を腕の中に包み込みながら、深く口付けた。
 キスは、とても甘い味がした。

(20121110)
作品名:I wanna kiss you 作家名:aocrot