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TwinklingRing

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その日、トキヤと音也の二人は仕事の為、郊外にある古い洋館にいた。午前中にCDのジャケットと歌詞カード用の写真撮影を済ませ、午後にはファンクラブのHPに載せる写真撮影とインタビューを控えている。
 洋館は一階部分の一部がレストランとして一般客にも解放されており、音也が行ってみたいと言うので、スタッフに頼み席を取ってもらい遅い昼食をとることにした。
 二時近く、人もまばらなフロアの、あまり人目につかない端の席へ案内される。見事なイングリッシュガーデンを見ることの出来る窓際の席で、音也は嬉しそうに外を眺めていた。子供のようにはしゃぐ姿に溜息を吐きながら、ランチを注文し音也の話に適当に相槌を打っていると、近くの席へ一組の男女が案内されてきた。
 その姿が、音也が見ていたガラスに写り込む。最初はそれをあまり気にしていなかった音也が、やがて二人の姿を気にするようになっていったのが分かったのは、それまで続いていた会話が途切れ途切れになったからだ。トキヤは音也が見つめているガラスに、ちらりと視線をやった。
 男女はまだ結婚前のカップルのようだった。彼女のほっそりとした指に嵌った指輪は、彼の指にあるものを同じものなのだろう。二人は手を触れ合わせるようにして指輪を覗き込み、笑いあっている。
 トキヤが見ているとも気付かず、音也がふと視線を落とした。テーブルの上に置かれた手を見て、それから何かを恥じるようにそっと指を折り畳んで隠した。
 何か言うだろうか…。
 トキヤは黙ったまま、音也の言葉を待ったが、音也は結局何も言わず「ねぇトキヤ、あの花綺麗だね」と呟いた。
 普段は人の都合もお構いなしに我侭を言うくせに、こんな時ばかりは物分りの良い振りをする音也に、トキヤは溜息を吐いた。

夕方、事務所に戻って軽い打ち合わせを済ませてから、トキヤは用事があると言って音也とは別々に帰った。
 以前一度、広告に出てから懇意にしているジュエリーデザイナーに連絡を取ると時間が取れるというので、日本橋にあるアトリエへ向かった。店舗は閉まっていて、事務所の入り口からアトリエへ入った。デザイナーはトキヤの為にいくつかのデザインのペアリングを用意していてくれた。トキヤはその中からシンプルで、指に馴染むものを選び、譲ってもらった。
 所謂、エンゲージリングのような高価なものではないが、音也はきっと喜ぶだろう。
 デザイナーはトキヤがペアリングを求めた理由を深くは訊かず、ケースが無いのでと言って代わりにイタリアで手に入れたというヴェネチアングラスの小さなトレーをくれた。それが音也の好きな赤だったので、トキヤは笑って、ありがとうございますと礼を言った。
 夜遅くなってから二人で暮らしている部屋に帰ると、音也は既に寝ていた。待ちきれなかったのだろう。トキヤの分だけラップを張って置いてある夕食。
 音也の肩まで掛け布団を持ち上げてやりながら、トキヤは音也の手に携帯が握られているのに気付いた。
 そういえば、何時に帰れるとも連絡をしてやらなかった。
 音也の手から携帯電話を取り上げ、充電器の上へ置く。微かに湿っている髪を撫でると、音也が小さく唸って目を開けた。
「……おかえり…」
別に二人以外には誰も聞いていないというのに、ひそひそと話した音也に顔を寄せキスをする。音也は目を細めてそれを受けた。
「…すみません。起こしてしまいましたね」
そう囁けば、音也はただ首を振ってトキヤの手をぎゅっと握った。その指が子供のように熱くて、愛おしくなる。もう一度キスをして、トキヤは音也の手を離した。
「おやすみなさい、音也」

次の日の朝、トキヤはいつものように音也よりも早く起き、十五分後にアラームセットした携帯電話を音也の枕元へ置いた。
 ダイニングテーブルの上を拭いて、夜のうちに作っておいたサラダと、それを取り分けるための皿、フォークを綺麗に並べる。そうしていつもの風景を作ってから、音也の席の前へ鮮やかな赤いガラスのトレーを置いて、その上に指輪を乗せた。ペアになっているもうひとつは自分の指に嵌め、キッチンに入る。
 コーヒーをセットし、ベーコンを焼いてオムレツを作っている間に、アラームが鳴り始めた。それは暫く鳴り続けた後、ぴたりと止まった。
 トキヤがいる朝はいつも直接音也に声を掛けて起こすので、どうも様子がおかしいと思ったのだろう。いつもより早く覚醒したらしい音也がベッドから起き出したのが、気配で分かった。音也は一度キッチンを覗くとそこにトキヤがいることを確認して、大きな欠伸をしながらダイニングテーブルに向かった。
 どんな反応をするのか気になり、オムレツを皿に盛り付けながら横目でそっと音也を窺う。
 音也は椅子に座るとしばらくぼんやりとしていたが、そのうちにぎゅっと瞑った目を恐々といった感じで開いて…ということを二回繰り返してから、指輪を手に取った。
 本当は嵌めてやりたいような気持ちもあったが、トキヤは素知らぬ振りをして黙っていた。
 音也は指輪を指先に持って持ち上げると、最初薬指に嵌めたようだった。けれど第二関節で諦め、首を傾げながら小指に嵌めた。
 椅子を飛び降り、キッチンに駆けてくる足音。背後から抱きついてきた音也の体を背負うようにしながら、オムレツにパセリを散らす。
「ありがとう、トキヤ。すっごい嬉しい」
弾んだ声は、なんだか泣き出しそうにも聞こえて、トキヤの笑みを誘った。
「何がですか」
わざと素っ気無く返すと、音也も笑って、トキヤの目の前に指輪の嵌った手を差し出し開いた。
「似合う?」
トキヤの肩に顎を乗せて訊いてきた音也の手を、トキヤは同じ指輪の嵌っている手で握る。
「まぁまぁですね」
嘯けば、音也が笑いながらトキヤの首筋にキスをしてくる。顔を摺り寄せ甘えるようにされ、首を傾けて音也を振り向き口付けを交わした。
「…ねぇ、トキヤ。どうして小指だったの?」
音也がふと気付いたように言った。
「約束は小指でするものでしょう」
トキヤはそう囁いて、音也の手の甲に唇を寄せた。

(20121109)
作品名:TwinklingRing 作家名:aocrot