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アンバランスバランス

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ふと気を抜くと、背後から人の気配を感じる。それはいつものように落ち着き無く動き、時折小さな声で鼻歌を歌う。
 一応、こちらに遠慮はしているのだろう。ギターは壁に立てかけられたまま、使われる様子はない。寝転んだその背中を、肩越しに振り返り様子を窺っていると、不意に音也が顔を上げこちらを振り返った。
 絡んだ視線をさりげなく逸らし、机の上のノートに向き直る。
 やりかけの課題はまだ終わらず、音也に構っている時間は無い。溜息をついてシャープペンシルを持ち直した時、背後でごそごそと音が聞こえた。ついで、ヘッドフォンを床に落としたような、騒がしい音。
 ああ…。
 もう一度溜息をついたところで、顔の両脇からぬっと突き出してきた腕が、トキヤの肩を抱いた。
「トーキヤ、何やってんの」
「…見たら分かるでしょう。勉強です」
胸の前で組まれた音也の手を解かせながら、言う。音也は大人しく手を解くと、今度は覗き込んできた顔の前で人差し指を立てて、「見たら分かるでしょう。勉強です」とトキヤの声真似をして言った。
 どうだ似てるだろうというような得意げな顔をしているので、呆れる。
 はっきり言って似ているとは思わないし、ここで何か反応を返せば音也の思い通りになってしまう。
 無視をして前に向き直ったトキヤに、音也が「那月は似てるって言ってたぞ」と笑う。
「あ、でももっと抑揚を抑えて低く話した方が良いって。なぁなぁ、トキヤはどう思う?なぁってば」
肩を掴まれ揺さぶられる。そうされるともう無視など出来るはずもなく、トキヤは仕方なくペンを置いて椅子を回転させた。
「…お願いですから、もう少し静かにしてくれませんか。私はあなたと違って忙しいんです。暇なら他の方に遊んでもらいなさい」
腕を組んで、告げる。音也は一瞬、きょとんとした顔をしてトキヤの顔を見つめると、すぐに唇を開けてにこりと笑った。
「嫌だ」
「………」
「俺は今日はトキヤと遊ぶって決めたの。トキヤさ、朝からずっとそれやってんじゃん。もうそろそろ休憩した方が良いって。俺、ずっと終わるの待ってたの、知らなかった?」
「それは知りませんでしたね。だいたいあなたという人はいつも人の都合を考えず、それどころかこちらの話も聞かずに迷惑ばかり、」
そこまで言って瞬きをしたところで、ぐいっと肩を掴まれた。回転椅子が左右に揺れ、バランスを崩しそうになった体勢を机に手を着くことでどうにか保つ。
「音也…」
人が話しているのに突然何をするのかと文句を言おうと顔を上げたトキヤの唇に、重なってくる柔らかな感触。乾燥して少しかさついた唇が少々乱暴に押し付けられ、その後、まるで犬か猫がするように温かな舌がペロペロとトキヤの唇を舐めた。
「遊ぼう」
子供っぽい口付けの後、にっこりと笑って音也が言った。
 音也といるとどうも、自分のペースが保てなくなる。
 トキヤが二人の間に線を引いても、音也はまるでそれが見えていないように、簡単に飛び越えてこちら側に来てしまう。何度も、何度も。
 それを鬱陶しく思いながら、振り払うことが出来ない。嫌味も悪意も、音也には通じない。ただ心のままに真っ直ぐに向かってくるこの男を拒むことが出来ない。
 全く…仕方の無い。
 腕を掴むと、音也が嬉しそうに笑って指を絡めてくる。その手の平は子供のように熱かった。
「仕方ないですね。少しだけですよ」
また近付いてきた唇を受け止め、薄く開いた唇の間から舌を差し入れる。綺麗に生えそろった歯列を舐め、柔らかな舌を絡め取る。
 膝の上に跨ってきた体を抱きとめると、ぎゅうと背を抱かれて胸が苦しくなった。
「…音也、重いですよ」
「うん」
頷いたくせに退いていこうとしない音也の背を軽く叩く。そうすると音也は益々ぎゅうぎゅうとしがみ付いてきて、トキヤの髪に顔を埋めた。
「トキヤ、好きだよ。大好き」
いつも明るく無邪気な音也の声に、切なさが混じる。どんな顔をしているのか、見てみたいような気もしたが、見てしまったらもう引き返せなくなるような気がして、ただ柔らかな髪を叩くように撫でた。
 返事を求める声は無い。
 いつもは図々しい癖に、こんな時ばかり遠慮して…。
「本当に…仕方が無いですね、あなたは…」
呟きと共に口付けた音也の髪からは、懐かしい日向の匂いがしていた。

(111204)
作品名:アンバランスバランス 作家名:aocrot