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Winter Waltz

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早朝の仕事を終え音也の待つ部屋へ戻ると、音也はまだ寝ていた。部屋の温度が下がっている。音也は鼻まで布団に埋め、丸くなっている。
 トキヤは上着を脱いでハンガーに掛けると、暖房を点けた。エアコンが静かに起動し生暖かい風を送り始める。
 音也のベッドに腰掛け、布団を少しだけ剥いで顔を覗き込んだ。音也は首筋に入り込んできた冷気に寒そうに肩を竦めて布団を持ち上げようとしたが、その手をトキヤが握ると驚いたように体を震わせた。もう一方の手で、音也の頬に触れる。
「…なに…冷た…」
寝起きの、少し掠れた声を上げ、音也がやっと目を覚ました。
「おはようございます。もう十時ですよ。オフだからと言って、いつまでも寝ているんじゃありません」
まだ開ききらない目でトキヤを見上げてくる音也を叱る。音也はそれを聞いてむっとしたような顔をすると、もぞもぞと布団の中にもぐっていった。
「だって、昨日遅かったんだもん。良いじゃん、少しくらい。…それにトキヤと違って、俺はすっごい疲れるんだからな」
最後の一言は少し恥ずかしげに加えられた。
 それだからオフの日の前日にしたのだとは、思ったが口にはしなかった。
 昨日は音也を部屋に呼んで、抱いた。
 最近、お互いに仕事が増え、擦れ違う日々が続いていた。同じ部屋に暮らしていた頃は喧嘩をした日も顔を合わさなければならなかったが、一人暮らしを始めてからは会いたくても顔も見れない日さえあった。
 音也のオフを事務所で知ってすぐにメールをした。擦れ違いの日々に、少し焦っていたのかも知れない。
 久し振りだったので、自分も箍が緩んでしまったようだ。らしくなく浮かれ、音也を気遣う余裕も無く抱いてしまったという自覚はあった。激しく責め立てられ最後、音也は子供のように泣いて、トキヤにしがみついてきた。
 赤みがかった髪を撫でる。襟足から覗いた首筋が赤く染まっていた。音也もまた、昨夜のことを思い出したのだろう。
「おや、私も疲れるんですよ。あなたの中は特別狭いので」
くすりと笑って言ってやった。
 怒り出すかと思ったが、音也は布団から顔を上げると悲しそうな顔をしてトキヤを睨んだ。
「トキヤ、それ、誰と比べてんの。もしかして、誰か他の奴としたの?」
拗ねたような声でそんなことを言い出したので、呆れる。
「比べる相手などいるはずがないでしょう」
「分かんない。最近ずっと、トキヤと一緒じゃなかったし。トキヤが誰かと浮気してても俺には分かんないもん」
そう言って音也は頭まで布団を被ってしまった。トキヤは溜息を吐いて、布団ごと音也を抱き起こした。
「本当に分からないんですか?昨日あれだけ想いを伝えたのに、足りませんでしたか?」
布団の中へ手を差し込み、音也の胸に触れる。昨夜散々苛めた所為でまだ熱を持っている乳首を乳輪ごと摘むと、音也が上擦った声を上げトキヤの手を掴んだ。
「あ、や、もう…無理だってっ…」
濃くなった空気を振り払うように、音也が非難めいた声を上げた。トキヤは笑って手を離し、涙の滲んだ音也の目を閉じさせると両方の瞼に唇を押し付けた。
「あなたが下らないことを言うからです」
「だって」
「もう黙って」
囁いてキスをする。
「…ああ、それに、早く起きた方が良いと思いますよ」
脱いだままになっていた音也のトレーナーを取ってやりそう言うと、音也は不思議そうな顔をした。
「外は雪が積もっています」
教えてやると、目を輝かせてベッドを飛び出していく。
 閉じたままのカーテンを勢い良く開き外を見た音也が、歓声を上げた。
「すごい、真っ白じゃんっ」
窓に張り付くようにしている音也の後ろから近付き、トレーナーを頭に被せた。音也は素直に腕を上げトレーナーを着ると、トキヤを振り向いた。
「トキヤ、散歩行こ」
「朝食が先です」
「じゃあ朝食の後。もしかしたら公園の池、凍ってるかも。雪だるまも作りたいし、雪合戦もしたい」
興奮して、あれもこれもと言い出した音也が、トキヤの手を握る。そのままくるりと回転させられ、トキヤが仕方なく付き合ってステップを踏むと、音也はそれが嬉しかったようにトキヤの胸に飛び込んできた。まるでワルツを踊るように、音也の体を抱いて揺れる。
「雪合戦は翔か寿さんに頼んで下さい」
「うん。メールしてみる。でも雪だるまは一緒に作ろ?」
甘えるように笑われて、トキヤはふと溜息を吐いて音也に口付けた。
「仕方ないですね…」

こんな雪の日は、世界で君だけの僕でいよう。

(20130114)
作品名:Winter Waltz 作家名:aocrot