ぽかぽか
当番に当たっていた寮の雪かきを終えて、紫原はそのまま食堂へ足を向けた。ふと前を見ると、周りから少し頭が出ている人物が、寒そうに身体を縮こめている姿が見える。紫原にしてみれば、すっぽりと包み込めそうな恋人の姿だ。
「室ちんなにやってんの?」
食堂の列の最後尾にいた彼に声を掛ける。すると、顔を上げて振り向いた氷室と目が合う。
あつし、と自分を呼ぶ声に思わず心臓がはねる。それ、反則。寝起きの恋人の色気は半端ない。
「寒さと眠気がつらくてね」
苦笑いした後、氷室はじっと紫原を見つめる。
「なになに、どーしたの」
「いや、顔が赤くないか?」
すっ、と紫原の頬に手を伸ばしてきた。触れる指先は冷たくて気持ちいい。
「やっぱり、熱があるんじゃ?」
「あー。さっきまでしてたの、雪かき」
「敦、雪かき当番だったの?」
「うん、おかげでぽかぽか」
むしろ暑いくらい。そう言おうとしたとき、ぎゅっと華奢な身体が自分に抱きついてくる。
「室ちん……?」
「うん、すごく暖かいね」
一つ年上の相手が、珍しく自分を頼ってくれるように体重を預けてくれる。ほんの些細なことが嬉しくて、紫原はぎゅっと抱き返す。
「ねー、室ちん。お腹すいたー。一緒に朝ご飯食べよ?」
氷室を抱えながら一歩一歩、紫原は食堂内を歩く。
なにも反応しない氷室に疑問を浮かべて、ふと下を見る。すると、すー、と規則正しい呼吸音が聞こえた。
一瞬、何が起こったかわからずに首をかしげて、元に戻したときに気づいた。
「寝息?」
目はしっかりと閉じられて、小さく聞こえる呼吸音は寝ているときのものだ。
紫原の体温で安心し、眠気が襲ってきたのだろう。腕の中で安らかに眠っている。
「室ちん、俺の腕の中で寝ないでー!」
紫原にとって疲れて空腹の朝には耐えられない仕打ちだった。