流れ星-雲雀SIDE
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《5000HITお礼小話》
隣を歩く獄寺が「あ、流れ星。」とポツリと呟くのが聞こえた。
「十代目に聞いたんだけどさ。
流れ星って流れて消えちまう間に願い事を3回唱えられたら
叶えられるって言われてるんだってさ。」
それを聞いて、雲雀は僅かに不機嫌になった。
願い事云々ではなく、獄寺で言う所の『十代目』から聞いて、
何の疑いも無く鵜呑みにする事に。
何故あんな草食動物に獄寺が心陶しているのか、
未だに分からない。
勉強でも運動でも、最下位か、それに近い成績の持ち主で。
自分から見て、獄寺がそれこそ命がけの忠誠心を
示す程の価値があるようには到底思えない。
それなのに。
この子は、その『十代目』とやらが教えたらしい知識を、
それはそれは嬉しそうに雲雀に話して聞かせるのだ。
正直、面白くない…。
「流れ星なんてすぐに消えるのに、3回も唱える暇なんて無いんじゃない?」
僅かに不機嫌な声で答えを返す雲雀に、
「それはそうなんだけどさ。」と獄寺は苦笑しながら言う。
事実、流れ星なんか見つけた途端あっと言う間に流れていき、
消えてしまうからだ。
「なぁ、雲雀。もし願いが叶うとしたら、オマエは何を願う?」
「くだらないね。僕は欲しいモノがあるなら自力で叶えるし、
そんなすぐに流れて消えるようなモノに願いなんかかけないよ。」
バッサリと切り捨てるような物言いをしてしまったが、
自分としても嘘を言うつもりも無いし、いくら恋人とはいえ
自分の心を誤魔化して甘いセリフを吐くつもりも全く無い。
自分の願いは、自分で叶えれば良い。
自分が願ったモノは、自分の手で、自分の力で掴まなくては意味が無いから。
他力本願なんか、まさに不本意だ。
「…オマエって、そういうヤツだよな。」
そう答えるだろう事は分かっていたと言うように、
獄寺は苦笑を深くする。
そんな獄寺を、雲雀は訝しげに見やる。
…獄寺には、何か願いたい事があるのだろうか?
またもや、いつも事あるごとに口にしている
『十代目の右腕になる』だろうか?
「君は?懲りもせず、十代目とやらの右腕?」
少しからかうように聞いてみると、少し小首を傾けて
何かを考えるような少し幼い仕草をする。
それを見て、おや?と雲雀は、それに違和感を覚える。
いつもなら、自分があの草食動物に関して少しでも馬鹿にした言い方をしたら、
「十代目をバカにするなっ!」だのと顔を真っ赤にして
怒り出すのが常なのに。
いつもと何とはなしに違った雰囲気の獄寺を雲雀は無言で見つめると、
またもや獄寺は夜空に目を向ける。
この子は今、何を考えてるんだろうか。
自分も口数が多いほうではないが、獄寺もまた、自分の言いたい言葉を
自分の中に溜め込んで仕舞いこむ事が多かった。
「…あ、また流れ星だ。」
また流れ星を見つけたらしい獄寺は、ジッと夜空を見上げている。
まるで、何かを願い祈るかの如く。
そんな獄寺の姿に僅かに不安を覚え、雲雀は獄寺の腕を掴む。
すぐに消えてしまうような流れ星に願いを掛けると云う事は、
自分達の力では叶える事が無理だという事だ。
でなければ、獄寺は自分の力で何とかしようとするだろう。
少なくとも、自分の知っている獄寺隼人という人間はそうだ。
己の力でも、恋人である雲雀でも叶えられない願いとは、一体何なのか。
「…君は、一体何を願うの。」
雲雀の問いかけをどう捉えたのか。
獄寺は一瞬目を見開いてフっと短く息を吐いた後、
何でもないと言う様にふわりと笑って見せた。
そんな、滅多に見せない柔かい笑顔を見た雲雀は僅かに目を細める。
その笑みを見て、獄寺が自分の問いに答える事は
きっと無いのだろうと雲雀は分かり、少し俯いてそっと小さなため息を零した。
この、自分の隣を歩く事を許した唯一の存在が
自分と同じくして頑固な事は、身をもって知っているから。
しばらく、互いに無言で止めていた歩みを進めて獄寺の住む
マンションに向かう。
あと一つ角を曲がったらマンションに着く、という所まで来たとき。
「なぁ。」
また上を向き、夜空を見上げた獄寺が雲雀に呼びかける。
「…何?」
「明日もさ、晴れるといいよな。」
短く返事をした自分に、獄寺はまるで先ほどの消えてしまいそうな
儚げな空気を消し去るような、笑顔を向ける。
そんな、いつも通りの笑顔を向ける獄寺を見て、
それならば。と雲雀は思った。
君が小さく輝く星に願いを掛けるなら。
それならば、自分は流れてすぐに消えてしまう星なんかより。
夜空を明るく照らし、星より大きく夜空を支配する月に
願いを掛けようか。
きっと僕らは、互いを唯一と思っても互いを一番に選ぶ事は出来ないから。
だから。
願わくば、一番最後に選ぶ手は、どうかお互いのものでありますように。
いつも一緒に居られなくても良い。
でもせめて、彼が最後に伸ばすのは僕の手であって欲しいと願う。
そして、僕が伸ばした手を掴んで欲しいと願う。
いつもなら他力本願を厭う自分が珍しく、自嘲気味の笑みが
意識なく零れ落ちる。
それを見た獄寺が、「どうしたんだ?」と不思議そうにこちらを見やった。
でも。
「何でもない。」
教えてあげない。
僕の願いは。
「明日も晴れたら良いなって。そう思っただけだよ。」
教えてあげない。
君が本当の願いを教えてくれない限り。
雲雀は自分と同じく本当の願いは心に秘めたままの想い人を引き寄せた。
いつもは部屋以外で抱きしめると散々喚く彼は珍しく黙ったままで。
僕は、そっと白くて細い身体を抱きしめたまま目を閉じた。
そして、いつまでも言葉もなく抱き合ったままの僕達を、
細く西の空に浮かぶ三日月と、明るく輝く頭上の星たちだけが。
ずっと、ずっと、静かに見守っていた。
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作品名:流れ星-雲雀SIDE 作家名:tomo-tomo