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ニルライでチョコ

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ぼんやりとしていたら、ほいっと口元に差し出された。差し出した相手は、決まっているから、そのまんま口にする。
 じわりと口の中で融けていく甘い感触に、おいしいとは感じた。それを飲み込むと、また差し出される。まあ、二個ぐらいはいけるので、同じように口にした。
「なんか身体が、むずむずとかしねぇ? 」
 はい? と、視線を眼の前に合わせたら、輝くような笑顔の実弟が居る。
「即効性だって言ってたんだけどなあ。」
 さらに、ニコニコと微笑んでいるのが、同じ顔の同い年の男だから、とても心に痛い。また、何かしらま悪戯を思いついたらしい。やれやれ、と、尋ねてみる。
「ライル、何を食わせたんだ? 」
「媚薬入りのチョコ。もちろん、即効性で強力なヤツ。」
 悪戯な笑顔が、心に痛い。この実弟、なぜか、たまに悪戯をする。そう言われても、これといって変化はない。媚薬入りなんていう怪しいもので人体実験をしているらしい。
「俺、クスリとか効き難い体質なんで、無駄だと思うぜ? 」
「そうか、食わせ損だなあ。」
「おまえ、これ、誰に仕掛けるつもりなんだ? 」
「いや、兄さんに、だよ。たまには、悶える兄を見たいなあーと思ってさ。」
 あっけらかんと言われて、溜め息を吐く。見たいもんだろうか? 同じ顔の男の悶え苦しむ姿なんてものを。
「じゃあ、おまえも食えよ? 」
「やだよ、俺、こういうのプラシーボ効果が出るんだから。絶対に、悶々とする。・・・なあ、もうちょっと食べない? 」
 ほら、と、差し出されたトリフを、唇で押さえた。そのまま立ち上がり、実弟にキスの要領で食わせた。ついでに、その手にしていた箱から、何粒か取り出して、さらに口移しで食わせる。体温でチョコが融けて、とろりと実弟の唇から溢れ出してくるのも無視して、さらに食わせてから離した。口から流れているチョコと茫然とした目の実弟は、そのまんま固まっている。
「うまいか? ライル。」
 口一杯のチョコをもごもごと食べつつ、実弟はポカンとしていたが、しばらくして真っ赤になった。それから、わたわたと動き出したので、さらに羽交い絞めにしてみる。
「どうした? ムラムラしてきたのか? 」
「あ、いや、違う。・・・シャツ汚れたじゃねぇーかっっ。」
 チョコを食べきった実弟が慌てて逃げようとしているが、そうは問屋が卸さない。悪戯の仕返しはしておかなくてはならない。
「どこ触って欲しい? ライル。」
「・・やっやめろってっっ・・・・」
「たまには抱いてやろうか? 」
「バッバカッッ。」
 耳元で囁くように告げてやると抵抗が激しくなる。本当に、プラシーボ効果があるらしい。本気で抵抗されてしまうと、羽交い絞めから逃げ出すぐらいは実弟にも簡単だ。少し離れた場所で肩で息をしつつ、こちらを睨んだ。
「変態っっ。バカッッ。」
「おまえ、俺の悶える姿を見たいとか言ってなかったか? そっくり、そのまま返してやるよ。・・・それより大丈夫なのか? さっさと抜いて来いよ? 」
 まだ変化は見られないが、とりあえず決まり文句だけ言って、居間から俺も出る。この様子だと、後が五月蝿いだろうから、しばし外へ逃亡する。しかし、実弟は玄関まで追い駆けてきた。
「ちょっ、ちょっとっっ、兄さん。今夜は一緒に食事する約束だろ? 」
「待ち合わせの場所をメールしてくれたら、そこへ行くさ。・・・まあ、せいぜい、抜いてすっきりしろ。」
 適当な上着を被り、さっさと玄関を出た。こういう日に、兄弟で食事するのもいかがなものだろう、と、疑問に思うのだが、実弟が、そう言うのなら付き合うのはやぶさかではない。
 ただ、悪戯はいただけないので、仕返しだけはしておいた。さて、実弟に、おいしいチョコでも探してやろう、と、繁華街へ足を向けるもりで駅へ歩き出した。




 思い込みというものがある。俺は、結構、それにかかりやすい。媚薬入りチョコというパッケージだけで、なんとなくムラムラするのも、その所為だ。実兄が涼しい顔をしていて、ちっとも効果がなくても、なんだか内から湧き上がる衝動は感じてしまう。

・・・・・いや、あのキスだ。なんて性質が悪いんだよ。後頭部を掴むって卑怯だろっっ・・・・・・


 抑え込んで抵抗を封じられて、実兄にディープなキスを仕掛けられたのを思い出して余計に体温が上がる。実兄も、いろいろと経験は積んでいるらしく、なかなかエロいキスだった。兄弟とはいえ、あれはダメだ。よく腰砕けにならなかった、と、自分を褒めた。本当は、あれを俺がやるつもりだったのだ。



・・・・・まあ、いいさ。次の機会に、やり返してやる・・・・・



 今夜は、さすがにリベンジは難しい。次のイベントにやり返すことを予定して、とりあえずシャワーを浴びることにした。
作品名:ニルライでチョコ 作家名:篠義