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答えはすべて単純なこと

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何の脈絡もなく突然に投げかけられた問いに、鬼道有人は一瞬頭が真っ白になったように思考停止し、固まった。
「鬼道クンてさ、もしかしてマゾ?」
 何を意図しての発言なのか、皆目見当もつかないことを口にする不動明王のその表情からは色が見えなくて、やはり何も読み取れない。
「……人聞きの悪い事を言うな」
 からかわれているのか、馬鹿にされているのか。どちらにせよいい気などするはずもなく、鬼道は眉を顰めてそれだけを返すと、「へえ」と今度ははっきりと嘲笑するような声音で呟き、不動は細く短い眉を片方上げた。
「オレはてっきりドMかと思ったんだけど……それってもしかして無自覚?」
「……どういう意味だ」
 益々失礼極まりなく、そして不可解な問いかけをしてくる不動に対して、鬼道は苛立ちを覚えずにはいられない。
 話の行先が全く見えず、主導権を全て握られているかのような霞がかった会話とも呼べるか怪しいその問答は、しかし不動の次の一言で霧散した。
「――お前、円堂の事好きだろ」
 疑問ではなく、確信を持って告げられたその突拍子ともとれる科白に――しかし全てが一本の線で繋がったような整合性を感じて――鬼道はこの日初めての動揺を、息を呑む事で不動に伝えてしまった。
 表情の変化すらも悟られて、それを見て取った不動は確信を更に深めたようにまたも「へえ」と呟く。
「自覚はあったのか」
 嘲笑のような、感心したような、どっちともとれる不動のその科白に鬼道はかあっと上気した。
「……ッ! 何が、言いたい」
 声を荒げそうになるのを押し留めて、鬼道は殊更感情を抑えて色のなくなった声で返すと、さもおかしそうに不動が喉の奥でククッと笑った。
「鬼道クンてさあ、案外わかりやすいよな」
 張りつめた糸のようにピンと緊張している鬼道を余所に、不動は勿体をつけるかのようにゆっくりとした動作で水筒に口をつけていた。
「相手はあの円堂だ。脈無しなんて事、鬼道クンならとっくにわかってんだろ? ……それとも、それって悲劇のヒロインぶってるつもりかよ」
「……ッ、不動!」
 侮辱にしか聞こえないその科白に、流石に感情を抑えることも出来ないままに声を荒げ、考える前に身体が動き黙らせようと鬼道は不動の胸倉を掴んだ。しかし不動はそれに動じた様子を全く見せずに、笑みさえ浮かべてみせた。
「怒るなよ、益々図星っぽいぜ」
 秘め事を暴かれた動揺と、不動の狙いの不透明さに、鬼道はじんわりと嫌な汗をかきながらからからに渇いてしまったような喉から搾り出すように声を出す。
「……お前、何が目的だ」
「……さあ? なんだと思う?」
 茶化すような不動の科白に、鬼道は更に苛立ちを募らせた。不動の胸倉を掴む手は血の気が引いたように白く、小刻みに震えているのを鬼道本人は気付く余裕すらない。
「……天才ゲームメイカーサマも、フィールドから出ればただのヒト、ね」
 溜息を吐き出しながらの独り言のような不動の科白に、その意味する所がわからずに鬼道は眉を顰めた。
「どういう意味だ」
「――こういうコト」
 ふいに胸倉を掴み返されて、身体が傾き引き寄せられた。
 唇に押し付けられるようにして合わさったそれは初めての感触。僅かにかさついたそれが何であるのかもすぐには理解できないほどに鬼道は動揺し、混乱した。
「ヒントをやるよ、鬼道クン」
「ひん、と……?」
「どうしてアンタが円堂を好きな事にオレが気付いたか、そこを考えてみろよ。……ほら、答えなんてすぐに出るだろ?」
 呆けた鬼道の胸元からゆっくりと手を離しながら、不動が淡々と口にするその言葉の羅列は、それが耳にはいってきても、衝撃の強さを引きずる鬼道には上手く理解が出来ない。
 そして、不動が常より饒舌な事にも、その理由にも鬼道は気付けない。
「……オレは、アンタみたいに友情ゴッコで満足しないしする気もないぜ。ほしいものは、必ず手に入れる」
 許容量を超えた鬼道の頭に、宣戦布告のような不動の科白が直接流れ込むように響く。
 まともな反応が返ってはこないのをわかっているだろうに、だが不動は気にした風もなく、笑みさえ浮かべていた。
「――覚悟しろよ、鬼道クン」
 囁かれた言葉が、頭の中で反復する。
 ……囁かれた耳元が、じんじんと熱を持って、痛い。
作品名:答えはすべて単純なこと 作家名:みみや