Wizard//Magica Wish −8−
「ふぅ…ふぅ…」
身体の間隔がよくわからない。からっぽの頭で私は両手に持った剣を振り下ろす。何度も、何度も。上段斬りから下段斬りへと続き最後は突き。相手が消滅したらまた違う相手へと刃を抜く。疲労なんて感じてない。ただ、身体中の血管に流れる血を沸騰させながら、無数に現れる使い魔をバッタバッタとなぎ倒していく。
「『ランド』プリーズ!『ドッドッド、ド・ド・ドン!ドッドッド、ドン!!』」
「さやかちゃん、もっと周りを見ないと!」
「うっさい黙れ!!私に指示だすな!」
あいつの声なんて聞いていられない。それは、杏子達も同じ。全方向から現れる犬…いや、狼の形をした使い魔達を私は倒していく。恐ろしい呻き声を上げて私に噛み付こうと突進してくる…そんな攻撃、今の私には意味ない。全てスローモーションに見える。一切の躊躇なんてなく、斬りつけてやる。犬みたいな痛々しい声をあげながら消滅する…そしてまたどこからともなく使い魔が現れる。その度に舌打ちをして私は群れに突っ込んでいった。
「『ディフェンド』プリーズ!」
「危なっ、ちょっと さやかちゃん!」
「はぁっはぁっ!」
「さやか!一旦落ち着け!!」
「うっさいわね!傷ついても魔法でなんとかなる!!」
「馬鹿っそんな甘い考えが命取りになるんだよ!!」
うるさい、うるさい、うるさい!
なんなのよ…あんたたちは…。
なんで私に命令するのよ!そんなにあんたたちは偉いの!?
私の勝手で良いじゃない!
私は…私は!!…あっ…
「さ、さやかちゃん!」
「まどかっ!…ダメよ、あなたが突っ込んでも、あの使い魔達の群れに食い尽くされるだけよ」
一瞬、気を抜いてしまった。
狼の使い魔はそんな隙を逃すことなく、私の肉体にかぶりついてきた。
私は抵抗しようも、思うように剣を振れない。
次第に、目の前が赤一色になっていく…けど、不思議だ。
こんなに噛まれているのに…こんなに血を流しているのに…
痛みなんて一切感じない。
何故?
答えは簡単だ。
私は、魔法少女。
人間では、ないのだ。
「さやかぁっ!!くそっお前ら邪魔だぁぁっ!!!!」
私の目の前から、黒い物体が一瞬で消え去った。
私は身体を起こし、すぐに自分へ治癒魔法を使用する。
食い破られた肌が一瞬で元の状態に完治し、赤しか見えなかった光景が次第に色彩が戻っていく。再び両手に剣を持ち、すぐに杏子とあいつの後を追っていった。
「これで終わりかな?杏子ちゃん、最後は俺が決めるよ」
「あっあぁ…悪い、少し動き過ぎて、体力が…」
「シューティングストライク!!」
「フィナーレだ。…はぁぁぁぁ!!」
残っていた使い魔達をあいつの必殺魔法で全て打倒し、魔女結界が消滅した。気味の悪い光景が一変し、木々が無数に立ち並ぶ裏山へと姿を変えた。
「さやか…」
「…なに?」
杏子が血相を変え私に近づいてくる。あ~はいはい、お説教ですか?
正直、訳がわからない。
何故かって?杏子が何故私に説教する威厳があるのよ。
私より先に魔法少女になったから?冗談じゃない!
そんな『人間がする縦社会』みたいなこと、演じられても迷惑なのよ。
「…この、馬鹿野郎!!」
「…いっ…なにすんのよ」
思ったとおり、杏子は私に平手打ちをしてきた。ふぅ~ん、昔だったら、女が相手でも容赦なく握り拳で殴っていたあんたが、最近色気付いたのかわからないけど、ちょっとはそんなこと考えるようにはなったんじゃない。
今更、お互い何をやったって遅いってわかっているくせに。
…ほんと、なんなのよ。
むかつく。
「ちょっと、杏子ちゃん」
「ハルト、あんたは黙ってな。あたしは さやかと話してる。…さっきの戦いはなんだ!!お前、本当に死ぬ気か!!?」
「死ぬ気?…はっ…あははっ!あははははっ!!」
「何?…どうしちゃったの?…さやかちゃん……」
「あははははははっ!!!!…あ~ぁ…おっかしい、まどかぁ…今の杏子の言葉聞いたぁ?死ぬ気!!?笑わせないでよっ!!私達はもう『死んでいるのよ』!!!!」
「…っ…美樹さやか、止めなさい」
「何?ほむら、あんたも私に説教するつもり?」
「今更そんなこといったって、何の意味もないわ。お互い、険悪する状況になるだけよ」
「そう思いたかったら、思えば良いじゃない!!」
「いい加減にしろ!!さやかぁっ!!!!」
「うっさいわね!!犬みたいに遠吠えしかできないのか!!あんたはっ!!!!」
むかつく…むかつく、むかつくむかつくむかつくっ…
「さやかちゃん、落ち着いてよ、ね?杏子ちゃんも、ほむらちゃんも別に さやかちゃんを責めている訳じゃないんだよ?」
「まどかぁ…あんたは良いわよねぇ?」
「えっ…」
「あんたはいっつも誰かに守ってもらえて、誰かに助けを求めれば、ほむら や杏子、おまけにあいつにだって駆けつけてもらえる」
「…違っ…私、別にそんなつもり…」
「マミさんの時もそうだったよねぇ?結局自分で何もできなかったから、あいつにすがりよって…魔法少女になっても、まどか は普段の日常のまま…私とは大違い!!」
「止めてよ…もう…ね…うっ…」
「そうやって、まどかは泣いてばっかり!!泣けば誰かが助けてくれる!!対した凄い魔法も使えないくせに!!!!」
「うっ…うぇ…ぐすっ…違う…違うよぉぉ!!」
「美樹さやかっ!!」
「…っ!!…なに…?そのまま撃っちゃえば?」
「それ以上、まどか まで自分の怒りをぶつけるというのなら…私は容赦しないわよ…っ!!」
「うっさいわよ!!」
私のソウルジェムに ほむらがいつの間にか拳銃を突きつけていた。近くにいるから私にはわかる。普段はクール気取っている ほむらでも、こんなに怒ることがあるのだな、と。私は思いきりその手を振り払い、後ろを振り向いた。
こんなところに居てもストレスが溜まるだけ。
…もう、帰ろう。
今は、一人になりたい。
誰も、私に近づかないでほしい。
皆、どっかにいっちゃえ。
「うっ…ぐすっ…さやかちゃぁぁぁん!!」
「不味いわね…美樹さやか は相当魔力を消費している。このままだと魔女化も時間の問題よ」
「はぁ…なんなんだよ、あいつ。最近ずっとあんなに機嫌悪い状態じゃねぇか。な、ハルトもそう思うだろ?」
「………。」
「…おい、聞いてるのかハルト!?」
「…っ…あ、ああ。ごめん…何も聞いてなかった」
「ったく、お前もかよ。どうしちまったんだ?さやか だけじゃなく、ハルトも最近おかしいぞ?」
「う、うん…そうだね…」
楽しかった日常は、ある時をきっかけに一変する。降り止んでいた雨が、またポツポツと音を立てて降り始める。最初は弱かったが次第に強さを増し、地面にぶつかる音を立てながら今では髪がずぶ濡れになるほど、俺たちに降り注がれていた。
「さやかちゃん…」
身体の間隔がよくわからない。からっぽの頭で私は両手に持った剣を振り下ろす。何度も、何度も。上段斬りから下段斬りへと続き最後は突き。相手が消滅したらまた違う相手へと刃を抜く。疲労なんて感じてない。ただ、身体中の血管に流れる血を沸騰させながら、無数に現れる使い魔をバッタバッタとなぎ倒していく。
「『ランド』プリーズ!『ドッドッド、ド・ド・ドン!ドッドッド、ドン!!』」
「さやかちゃん、もっと周りを見ないと!」
「うっさい黙れ!!私に指示だすな!」
あいつの声なんて聞いていられない。それは、杏子達も同じ。全方向から現れる犬…いや、狼の形をした使い魔達を私は倒していく。恐ろしい呻き声を上げて私に噛み付こうと突進してくる…そんな攻撃、今の私には意味ない。全てスローモーションに見える。一切の躊躇なんてなく、斬りつけてやる。犬みたいな痛々しい声をあげながら消滅する…そしてまたどこからともなく使い魔が現れる。その度に舌打ちをして私は群れに突っ込んでいった。
「『ディフェンド』プリーズ!」
「危なっ、ちょっと さやかちゃん!」
「はぁっはぁっ!」
「さやか!一旦落ち着け!!」
「うっさいわね!傷ついても魔法でなんとかなる!!」
「馬鹿っそんな甘い考えが命取りになるんだよ!!」
うるさい、うるさい、うるさい!
なんなのよ…あんたたちは…。
なんで私に命令するのよ!そんなにあんたたちは偉いの!?
私の勝手で良いじゃない!
私は…私は!!…あっ…
「さ、さやかちゃん!」
「まどかっ!…ダメよ、あなたが突っ込んでも、あの使い魔達の群れに食い尽くされるだけよ」
一瞬、気を抜いてしまった。
狼の使い魔はそんな隙を逃すことなく、私の肉体にかぶりついてきた。
私は抵抗しようも、思うように剣を振れない。
次第に、目の前が赤一色になっていく…けど、不思議だ。
こんなに噛まれているのに…こんなに血を流しているのに…
痛みなんて一切感じない。
何故?
答えは簡単だ。
私は、魔法少女。
人間では、ないのだ。
「さやかぁっ!!くそっお前ら邪魔だぁぁっ!!!!」
私の目の前から、黒い物体が一瞬で消え去った。
私は身体を起こし、すぐに自分へ治癒魔法を使用する。
食い破られた肌が一瞬で元の状態に完治し、赤しか見えなかった光景が次第に色彩が戻っていく。再び両手に剣を持ち、すぐに杏子とあいつの後を追っていった。
「これで終わりかな?杏子ちゃん、最後は俺が決めるよ」
「あっあぁ…悪い、少し動き過ぎて、体力が…」
「シューティングストライク!!」
「フィナーレだ。…はぁぁぁぁ!!」
残っていた使い魔達をあいつの必殺魔法で全て打倒し、魔女結界が消滅した。気味の悪い光景が一変し、木々が無数に立ち並ぶ裏山へと姿を変えた。
「さやか…」
「…なに?」
杏子が血相を変え私に近づいてくる。あ~はいはい、お説教ですか?
正直、訳がわからない。
何故かって?杏子が何故私に説教する威厳があるのよ。
私より先に魔法少女になったから?冗談じゃない!
そんな『人間がする縦社会』みたいなこと、演じられても迷惑なのよ。
「…この、馬鹿野郎!!」
「…いっ…なにすんのよ」
思ったとおり、杏子は私に平手打ちをしてきた。ふぅ~ん、昔だったら、女が相手でも容赦なく握り拳で殴っていたあんたが、最近色気付いたのかわからないけど、ちょっとはそんなこと考えるようにはなったんじゃない。
今更、お互い何をやったって遅いってわかっているくせに。
…ほんと、なんなのよ。
むかつく。
「ちょっと、杏子ちゃん」
「ハルト、あんたは黙ってな。あたしは さやかと話してる。…さっきの戦いはなんだ!!お前、本当に死ぬ気か!!?」
「死ぬ気?…はっ…あははっ!あははははっ!!」
「何?…どうしちゃったの?…さやかちゃん……」
「あははははははっ!!!!…あ~ぁ…おっかしい、まどかぁ…今の杏子の言葉聞いたぁ?死ぬ気!!?笑わせないでよっ!!私達はもう『死んでいるのよ』!!!!」
「…っ…美樹さやか、止めなさい」
「何?ほむら、あんたも私に説教するつもり?」
「今更そんなこといったって、何の意味もないわ。お互い、険悪する状況になるだけよ」
「そう思いたかったら、思えば良いじゃない!!」
「いい加減にしろ!!さやかぁっ!!!!」
「うっさいわね!!犬みたいに遠吠えしかできないのか!!あんたはっ!!!!」
むかつく…むかつく、むかつくむかつくむかつくっ…
「さやかちゃん、落ち着いてよ、ね?杏子ちゃんも、ほむらちゃんも別に さやかちゃんを責めている訳じゃないんだよ?」
「まどかぁ…あんたは良いわよねぇ?」
「えっ…」
「あんたはいっつも誰かに守ってもらえて、誰かに助けを求めれば、ほむら や杏子、おまけにあいつにだって駆けつけてもらえる」
「…違っ…私、別にそんなつもり…」
「マミさんの時もそうだったよねぇ?結局自分で何もできなかったから、あいつにすがりよって…魔法少女になっても、まどか は普段の日常のまま…私とは大違い!!」
「止めてよ…もう…ね…うっ…」
「そうやって、まどかは泣いてばっかり!!泣けば誰かが助けてくれる!!対した凄い魔法も使えないくせに!!!!」
「うっ…うぇ…ぐすっ…違う…違うよぉぉ!!」
「美樹さやかっ!!」
「…っ!!…なに…?そのまま撃っちゃえば?」
「それ以上、まどか まで自分の怒りをぶつけるというのなら…私は容赦しないわよ…っ!!」
「うっさいわよ!!」
私のソウルジェムに ほむらがいつの間にか拳銃を突きつけていた。近くにいるから私にはわかる。普段はクール気取っている ほむらでも、こんなに怒ることがあるのだな、と。私は思いきりその手を振り払い、後ろを振り向いた。
こんなところに居てもストレスが溜まるだけ。
…もう、帰ろう。
今は、一人になりたい。
誰も、私に近づかないでほしい。
皆、どっかにいっちゃえ。
「うっ…ぐすっ…さやかちゃぁぁぁん!!」
「不味いわね…美樹さやか は相当魔力を消費している。このままだと魔女化も時間の問題よ」
「はぁ…なんなんだよ、あいつ。最近ずっとあんなに機嫌悪い状態じゃねぇか。な、ハルトもそう思うだろ?」
「………。」
「…おい、聞いてるのかハルト!?」
「…っ…あ、ああ。ごめん…何も聞いてなかった」
「ったく、お前もかよ。どうしちまったんだ?さやか だけじゃなく、ハルトも最近おかしいぞ?」
「う、うん…そうだね…」
楽しかった日常は、ある時をきっかけに一変する。降り止んでいた雨が、またポツポツと音を立てて降り始める。最初は弱かったが次第に強さを増し、地面にぶつかる音を立てながら今では髪がずぶ濡れになるほど、俺たちに降り注がれていた。
「さやかちゃん…」
作品名:Wizard//Magica Wish −8− 作家名:a-o-w