苦い、苦い、
「お、なんか美味そうなもん持ってるやん」
教室に学年の違う先輩が訪れた。テスト期間で他に教室に残っていない放課後、今吉の目的が自分だと花宮には自覚があった。
「別に、美味しくないと思いますよ」
スッと今吉が手を伸ばしてくるのは、広げたノートの横に置いていた包みが開かれているチョコレート。ラベルから外国の商品だとわかる、花宮の気に入っている品物だった。
「そんな、いけず言わんと」
許可もなくチョコレートの端を割り、一かけを手に取る今吉に、花宮は嘆息を吐いた。
せっかく、バレンタインなんやし。
なんて、飄々とすっとぼけたことを言いながらチョコレートを口に放る今吉。みるみるうちに、表情が歪んでいく。それに釣られて花宮の口角も上がった。
「なんやこれ、にがっ!」
「言ったじゃないですか、先輩には美味しくないと思いますよ、って」
何かを企むようなニタァとした花宮の笑みに今吉は乾いた笑いを返すので精一杯のようで、花宮はさらに嬉々として言う。
「ふはっ。ちょうどいいだろーが。アンタと俺とじゃ、甘い関係は似合わねーしな」
チョコレートやそれを贈り合う関係が甘いだなんて、一体誰が決めたのだ。