かなしいひと
「先輩は」
「なぁに?」
それ以上の追求を許さないと言われた気がして、高尾はそれ以上の言葉はいえなかった。いい子、と満足そうに微笑んで唇をなめられる。背筋がぞくり、と何かが走ったような感覚がした。
この人が、あの人を見る目と。自分が緑間を見ているときの視線とが同じものだと、気づいてしまった。叶わない、望みももてない。だけど、自分を否定できない。どうしようもない想いを抱えた視線。
「可愛い高尾。ずっと俺のそばに居ろよ」
誰かのものになんて、許さないから。耳元でナイフを突きつけられるような感覚に閉じたまぶたが震えた。壊れ物を扱うみたいに目の前の首に腕をからめる。縋る相手は、彼しかいないから。
「寂しいの?いいよ、俺が緑間の代わりになってあげる」
だから、忘れちゃえばいいよ。くすりと微笑まれて、目頭が熱くなりその首筋に顔を埋めた。哀しい人。忘れられないと、誰よりも知っているのに。寂しいと、誰よりも感じているのに。言葉にできない悲しい人。誰よりも純粋で、誰よりも本当なまっすぐで。
「変だね。高尾なんて女の子みたいに可愛いわけでもないのに」
「女だったら犯罪ッスよ先輩」
一応あんた強姦してることになるんスけど。
「はは、もっとっておねだりした時点で和姦です」
かわいいたかお。と、額に羽のように口付けられる。哀しい人、悲しい人、愛(かな)しい人。
「安心するんだよ。なんでかな」
それはきっと、似ているから。答えを知っているのに、高尾は言うことができなかった。この温もりを、どこかで離したくないと。考えているから。
われながら、自分も寂しいのかもと自嘲の笑みを浮かべた。真ちゃん、こんな俺が君を好きでいる資格なんて、あるのかな。
END*
大坪のことが好きなのに、自覚は出来てなくて。
でもぐるぐるしてて、高尾も宮地も傷のなめ合い。