no title
ためらいながらも少女が問う。
透き通った石のような瞳に見つめられ、咄嗟に言葉を失った己の不甲斐なさを呪った。
彼女の誕生日を誰より早く祝福するのは、本当なら自分の役目ではない。この手で、本来の持ち主達から奪ったのだ。
年々美しく成長していく彼女を前にして、その事実を思い知らされる。
罪深い幸福の、何と甘美なことか。
そのたびに、色々な感情がせめぎ合い、自分は言葉を失くすのだ。
「お許しください」
不安を拭うための嘘さえ吐けない身に、彼女はひどく大人びた微笑を浮かべ、純白の衣の裾をふわりと翻し、あろうことか目の前で膝をつき、その両手を差し伸べた。
「許しているわ。何もかも」
吐息がかかりそうな距離で見つめられ、一瞬、息が止まる。
「アテナ」
「けれど、あなたは私の許しがほしいのではないでしょう?」
白い華奢な掌が、やさしく頬を撫でる。あの日の幼い掌とは違う。
もはや彼女を少女と呼ぶべきではないのだと思い知らされた気がした。
「私があなたのためにできることは、何もないのかしら」
「こうしてお側にいられるだけで、この身には余る幸福です」
「わかってるくせに、そういうことを言うのね」
「……では、我儘をひとつ、申し上げても宜しいでしょうか?」
少し拗ねたような表情にくすりと笑い、自分の頬に重ねられていた彼女の手をそっと剥ぐと、恭しく掲げる。
「貴女の誕生日を最初に祝う役目を、私にいただけますか?」
すると彼女は驚いたように目を見開いたが、やがて泣き出しそうな瞳を細め、慈しみの微笑を浮かべた。
「――――許すわ」
こぼれた涙なら拭える。
しかし、こぼれなかった涙の前で、自分は今も昔も無力なままだ。
「貴女の誕生日だというのに、私が我儘を聞いていただくのでは、あべこべですね」
彼女の手をとって立ち上がりながらそう言うと、彼女は春風のように微笑んで囁いたのだった。
「私のたったひとつの我儘は、もうあなたが叶えてくれたもの」