眠りの浅瀬
酔っぱらっちまった。
本当はいつも通り3人で寝るつもりだったんだけどな、
フランスとスペインとイギリスと喋ってたら、盛り上がっちまった。
あれ?でも、スペインは途中で帰ったんだっけ。
てゆーか、イギリスいつからいたんだっけ。
あいつほんとにバカで不幸な奴なのな、まだ日本のことが好きだとか抜かすんだぜ。バカだろ。
あいつはトルコの野郎にメロメロで、何かあるたびにサディクさん素敵過ぎますぅとか言うんだぜ、
しかもオタクだし。どうかしてやがると思う。
でもイギリスはどうもその事実が判らないらしくて、勘違いしまくっている。
日本はどうかしているが、イギリスは気が触れてやがるんだと思った。
「・・・・・・ぷー?」
「おっ。起こしちまったか、ごめんな」
「ううん、いい・・・・飲んできたの・・・・?」
眠そうな顔をして、イタリアちゃんが起きた。
目をこすり、軽くあくびをして。
あ〜あ、せっかく二人のカワイイ寝顔を見てたのによ。
「あぁ。だから、酒くせぇからよ。俺は今日は自分の部屋で寝るぜ」
「何でぇ・・・・?お風呂入ってくれば平気だよぉ・・・・」
「気にすんなよ。最近一人を満喫できてねぇからたまにはな」
「・・・・あ、そう・・・」
ぱったり倒れ込んで、目を閉じて。
イタリアちゃんはまた寝始めた。午前3時。
イタリアちゃんと、ヴェストが、二人並んで、寝息をついている。
可愛過ぎるぜイタリアちゃんと俺の弟!
そうそう、前から、こうしてヴェストの寝顔を見ながら、晩酌してたっけ。
俺はいつもいつも戦いに明け暮れてて、まともにヴェストに優しくしてやっていなかったと思う。
今のヴェストの真面目さと健全な精神があるのは、オーストリアとハンガリーの力添えがあるからだ。
こう言っちゃ悔しいけどよ。どうしようもない事実だろう。
今ヴェストと、ヴェストの恋人を、昔みたいに見てるとは思わなかったけどな。
「も〜・・・・いつまでそうしてんのぉ〜・・・・気になって眠れないぃ〜・・・・」
「え、あぁ悪ぃイタリアちゃん。何でもねぇんだよ、ほんと。見てただけ。」
「何で?何で見てんの?」
あれ、イタリアちゃん、機嫌悪ぃ。
寝てたところを起こされたからか、眠そうな目をこすりこすり、俺をじっと見つめてくる。
可愛いなぁ。
不機嫌な顔も可愛いぜイタリアちゃん。
「あ〜っ、もう、俺の話聞いてる?
早くお風呂入って寝なよ、もう真夜中だよ、ねぇ、プー!」
イタリアちゃんが何事か宣っているのも無視して、俺は下のキッチンからウォッカを持って、もう一度部屋に入った。
イタリアちゃんがベッドに横になって、俺を見てる。
部屋のドアを開けた、薄いフットランプの明かりで、イタリアちゃんの大きな、ドングリみたいな目が反射した。
猫みてぇだ。
猫の目も、少ない明かりに反射して、その存在を知らせる。
氷と、お気に入りのグラス。
もう一度飲み始めようとする俺に呆れたのか、何も言わずにこちらを見ている。
きっと一瞬、ヴェストを起こしそうになっちまったんだろう。
いつ頃から使ってんだっけなぁ、あぁ、終戦した頃からか。
ロシアの野郎が「飲む?」とか言って、そうだよ、ウォッカ持って来やがったんだ。
あのとき、俺は諦めていた。
ハンガリーは相当に荒れていた。
誰も幸せじゃなかったんだ。
めんどくさいよね、女の子って。僕たちは国なのにさ、恋愛感情なんかであんなに荒れちゃって。
彼女、相当寝てないでしょ。突然叫び出したりして、姉さんが怯えてるんだよ。
僕のところに来ては、
・・・・・やめよう。
気分良く晩酌してるってのに、可愛い二人が俺の目の前にいるのに。
嫌なこと思い出してどうすんだ。
ウォッカだな、ウォッカがいけねぇな。
「・・・・俺もいつか、子供を育てたら、プーの気持ち、判るかなぁ。」
小さく、ぼそっと、イタリアちゃんが呟いた。
俺をじっと見つめながら、可愛い。
「ん〜・・・それは判んねぇな。俺だけかもしんねぇし、この趣味。」
「みんな同じこと言うよ。寝顔が可愛いとか、寝言で笑うとか、何そんなに見てんのとか思う。
オーストリアさんとハンガリーさんもそうだった。」
「お、あぁ、そう。みんなそんなもんか。」
「日本も、中国にしょっちゅうそのこと言われるって。」
「ぶはっ。まぁなぁ、あいつも長〜いアジアの歴史では短ぇ方だもんな」
可愛くて、守りたくて、でもうまくかまってやれなくてコミュニケーション取りにくくて、
俺たちは、眠っている安らかな顔を見て、俺は間違っていない、と安心したのかもしれない。
とにかく、好きだってことを伝えたくて。でも、さっぱりうまく行きゃしねぇ。
「もう寝ろ、イタリアちゃん。俺を一人にしてくれよ」
「・・・・うん・・・」
さっきから、イタリアちゃんの瞼は閉じたり開いたりを頻繁に繰り返している。
眠いんだろ、でも、久しぶりに子供の頃見た光景を見たから、知りたくなったんだ。
でも駄目だぜ。これは俺らだけの特別、特権だ。
可愛い俺の、守るべきものの寝顔。安らかな、俺の庇護下にあり安心しきった、その寝顔。
俺のがんばっている証。
それはやっぱな、実感しなけりゃ判んねぇよ。
「・・・お休み、プロイセン。早く寝てね」
「お休みイタリアちゃん、良い夢を。」
ようやく寝息を立て始めたイタリアちゃんに、安心する。
ヴェストは無意識的になのか、眠ったイタリアちゃんを後ろから抱きしめた。
多分な。イタリアちゃんより、ヴェストの方が俺の気持ちを理解しやすいと思うぜ。
さっきのウォッカ、中の氷は少し溶けていて、
でも、ツマミが最高だから、気にならなかった。
お休みイタリアちゃん、ヴェスト。
明日も、いつも通りの笑顔を見せてくれよ。