Muv-Luv Cruelty Mermaids 1
日本にとってアメリカ及びアメリカ人は嫌悪の対象である。それは第二次世界大戦から始まり、日本は事ある毎に、その国力の未熟さ故にアメリカの要求を否応無しに呑まされ続けていたからだ。必然、その国の人間を日本人が快く思っている筈がない。
それ故キャシーは元々、ディスアドバンテージを持つこととなり、それを解消し、かつ副司令と渡り合うだけのそれ相応の材料を手にしなければならなかった。
―…はぁ、道のりは遠いわ…
「キャシー、どうしたの?ぼうっとして。」
「ん?いえ、なんでもないわ。少し疲れただけよ。」
「確かに欧州から帰還して間もないですし…」
キャシーが思考に耽っていると、心配そうにセリーナが声をかけた。フェミニも同じように心配そうな表情を浮かべていた。
これ以上心配を掛けるのも気が引けたキャシーはお開きの合図を告げた。
「んー。正直私も疲れちゃったし、今日はこれまでね。」
「そうね。フェミニも明日は丸一日移動だから早めに休んだ方がいいわ。」
「ありがとうございます。では…」
「ええ、お疲れ様。じゃあ。」
「ええ。」
「はい。お疲れ様でした。」
こうして3人が共に過ごす、年内最後の夜が終わりを告げた。
◇◇◇
1998年12月28日早朝
アメリカ・サンフランシスコ基地エアポート
エアポートでは、フェミニの派遣前の最後の別れをキャシーとセリーナが行っていた。
「では…キャシーさん、セリーナさん…」
「ええ、行ってらっしゃい。」
「気を付けて。」
「ありがとうございます。…また、会えますよね?」
不意にフェミニが不安そうに表情を曇らせる。対してキャシーはにこやかな表情でフェミニに応えた。
「当たり前よ。私は必ず生きて還ってくるわ。そして貴女も絶対に此処に還ってくる。セリーナだって"私達のホーム"を守ってくれているわ。私達には還る場所がある。そこに還ればまた皆に会える。それを忘れないで。」
「はいッ!」
フェミニは少し涙ぐみながら元気に返事した。
つられてキャシーも涙ぐみそうになったがそれをこらえ、最後の命令を下した。
「―フェミニ・少尉。貴官にグルームレイク基地への派遣を命ずる。…同時に必ず還ってこい!」
「了解!」
別れ際のフェミニの表情は凛とした衛士の顔をしていた。
◇◇◇
1998年12月28日朝
アメリカ・サンフランシスコ基地PX
フェミニの見送りを済ませると、2人は朝食を摂るべくPXにいた。
「さて…次は貴女ね。」
「ええ。私が発つのは明日だけど…今更ながら少し緊張してきたわ。」
「ふふっ。フェミニには格好いい事言ってたじゃない?貴女もそれに従えば良いのよ。」
キャシーの緊張を他所にセリーナはころころと笑う。
「あの時は上官面して言ったけど、いざ自分が単身で激戦地に向かうとなるとやっぱり怖いわ。」
「その気持ちは分からなくもないけどね。」
そう言うとセリーナはふっと笑顔を消して真面目な顔付きになった。
「でもね、貴女だって場所は違えど死線を潜り抜けてきている。それは対人類やBETA、様々だけど事実は揺るがないわ。もっと自信を持ちなさい。」
自信を持て。
それは幾度と無く仲間達から言われてきた言葉だった。
自分の行動に自信を持たなければ責任の重さに潰されてしまう。そして何度も挫折しそうになっていたが―
―私も私自身を変える。それが今回の私の課題。
そう思い直すと、キャシーは力強くセリーナの言葉に応えた。
「そうね。私は今まで、正しいと思うことを遂行することで生きてきた。そしてこれからも生き続ける。…自信と過信は別だけど、私は私に誇りを持つ…」
「そうよ、キャシー。」
優しく微笑みながら肯定するセリーナ。それにつられてキャシーも笑みを溢した。
作品名:Muv-Luv Cruelty Mermaids 1 作家名:Sepia