御狐様生活-参
今朝入っていた広告に、色々とお買い得商品があったため、晴明にお金をもらって買いに来たのだ。ちなみに、荷物持ちもいる。
「…………本当に、貴様が作るのか」
青龍である。「なんでこいつ?」とは、正直思った。もっと他にもいるだろう。もっと、他にも、神将なら。十二人いるんだから。
晴明にも何か理由はあるのかもしれないが、いやはや。心臓に悪い。
「食事をしないお前らに任せるより、はるかにいいと思うがな、俺は」
「毒の類を入れられたら、たまったものじゃない」
「この現代日本で、一般人がどうやって手に入れるんだよ……」
杞憂にも程がある。そうは思いつつも、一応は会話が成立しているのが嬉しい。そしてそれに喜ぶ事自体が虚しい。
人型化したからか、人目があるからか。そんなことをこいつが気にするとは思えないが、おとなしいに越したことはない。
「それで。買う物はこれで全部なんだろうな」
「あー、まぁ、食材は」
「なら、帰るぞ」
袋は、晴明に命令されたらしく、全て青龍が持っている。途中で持とうとしたら、激しく睨まれた。
ついていこうとした俺は、ふと、ある「必要な物」について思い出した。
「なぁ、先に帰ってもらうことって可能か?」
「は?」
「いや、ちょっと買いたいものが……」
買いたい。と言うよりも、値段を見たい。どれくらい必要なのか、検討したい。
なければいけないわけではないが、あると便利。使い方も分かる。そんなもの。
「………………」
ジィッと、睨まれる。ひとしきり、睨まれる。……当たり前か。こんな提案をしたんだから。
断られるだろう。そう思い、着いていこうと再度足を踏み出した辺りで、青龍が口を開いた。
「すぐに帰れよ」
「え?」
たった一言。彼はそのまま人ごみに紛れてしまった。
……どうやら、売り場に行ってもいいらしい。
「珍しい事もあるもんだな……」
気が変わって、戻ってくる前に、用事を済ませよう。
◇◆◇◆
大型ショッピングモール内でも、人気があまりないこの売り場。電化製品売り場。
そこの、目的の物の前で、俺は唸っていた。
「たっけぇ……」
ノートパソコン。有ると便利。使えると便利。でも高い。
何が高いって、本体よりも付属ソフト。専門店ではないため、インターネットやらなんやらのソフトは絶対についてくる。ソフトウェア自体を持っていないため、付属してくれた方がありがたいのは確かなのだが。それでも知っていると、余計に高く思えてくる。
そして、インターネットの設備がないらしい、あの家。無線ルータも必要。接続もしなければいけない。どうしたものか。
「ちょっとこの出費は痛いよな……」
やはり、諦めた方がいいのか。必須の物ではないのだから、高い金を出すわけにもいかない。
ふぅ、と息を吐いた。少し、すっきりした。
大人しく帰ろう。そう思い、商品から視線を逸らす。
「なんだ、お前、それが欲しいのか?」
「!!」
ぬっと、現れた。禿げたおっさん。もとい、配送のおじさん。……改め、丞按が。
「驚かすなよ! 毎回毎回!」
「知るか。自分の感覚がなまっただけだろ」
前回の掲示板然り。彼の中では、背後からの登場がブームなのだろうか。
「で、欲しいのか? それ」
それ。ノートパソコン。
「……買えねぇけどな。金がない」
あるけど、使いたくない。
だから、これだけ唸っているのだ。前回同様、それくらい理解してほしい。
「買ってやろうか?」
そうそう、前回みたいにうまい話を持ち出すわけが……
「て、え、は?」
「なんだ、いらんのか。それは残念」
「え、今買うって?」
「言ったが?」
なんなんだこいつ。頭わいてるのか? 前世のよしみがあったって、好意的ではなかったし、こんな恩ばっかり着せる奴でも……
「……条件は?」
「察しがいいな。ちょっと、体貸して欲しいだけだ。何、都合のいい日だけで構わねぇよ」
「…………おいしすぎる条件提供には、定評あるな、お前」
「で、欲しいんだろ? 買うなら今のうちだが」
「……ああ、そうだな。せっかくだから、着せられとくよ。ついでに、これも」
せっかくだ。色々買ってもらっておこう。
持つべきものは人の縁。誰かが言っていた。
◇◆◇◆
帰宅後。なぜか一緒についてきた丞按は、ルータの設定やら、パソコンの設定やら、一通りやってくれた。本当に、何が代償でくるのか、少し、いやかなり恐ろしい。
そして、現在食卓。
「なかなか、美味しいですぞ、叔父上」
「お口に合ったなら、何よりだな」
老人にしてはしっかりしていると聞いていたが、確かにその通りだ。俺が家にあがりこんでからも、自分の事は自分でやっていたし、体力等々も若者に近いものがある。寧ろ、イマドキの人の方が、劣っていそうだ。
かくいう俺も、体力にはそこそこの自身があっても、筋肉はつかず、前世ほどではないものの、ひょろりとした体型。将来、骨と皮だけになりそうだ。
「神将たちも作ってくれるんだがのぅ。作れる者が出払っている時は、いささか面倒な事になったり……」
「同じ神将でも、ムラがあるのか」
「個々に、色々違っているからのぅ。仕方あるまい」
なるほどな、と頷きつつ、お吸い物を口に流し込む。もう少し、味が濃くてもよかったかもしれない。
「そういえば、叔父上」
「ん?」
「バイトを、始めたみたいですな」
「…………」
なんで知ってるんだろう。言わなかったはずだが。
……知っていてもおかしくないか。お金に少し困っていれば、バイトという発想になることくらい、思いつくだろう。
「人の縁とは、奇妙なものです。もしかしたら、現場で誰かと会うやもしれませんな」
「……さすがに、そうならないことを、祈る」
バイト先にまで、知人に会いたくない。ただでさえ、最近は怒涛の邂逅劇だったのだから。
……本当に、ならないといいな。