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可哀想な俺たち

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人はあの美貌が羨ましいと人はいう。

しかしあの性格は凶暴だという。
それは合っている。非常に。
美人な母に美形な父、自分を愛してくれる両親と愛でられることになれきった瞳はどこまでも鋭い。
我侭の限りを尽くして世界の頂点に立っているようなその眼で世界を見下ろし傅く男を踏みつけている。悪女とは彼女のことだと、思う。

悲しい女だ。


そしてめんどくさい。

「ねーねーいずみたーん」
「うるっせ呼ぶな見るな触るな」
「触ってねーよ!つーか無視すんな!」
耳元で喚く女を一瞥して視線を教科書に戻す。
「なんだよ用件は完結に手短に、あ、お前には無理か」
なにも言わず殴られた。から殴り返す。
「なに!なんなの泉水ちゃん!ちょう不機嫌じゃん!」
「人の背中を足で突っつかれれば不機嫌になるわ」
「スキンシップじゃん?」
今度は殴ってやった。ら殴り返された。
少ない休み時間だ。有意義に使いたいと思うのは普通だろう。それを後ろの席のめがねくんの机に座り背中を蹴っているのだ。振り向いて彼女を繁々と見た。惜しげもなく自らの体の線を強調した制服の着方はまた違反だと掴まるだろうし、しばらずに流している髪も違反だ。こいつが捕まる掴まらないなど知ったことではないがそんなことをつらつら考えた。
建設的な話し合いをしようとようやく話を聞く体勢に入り切り出す。
「なんだよお前」
アイツも分かったのだろう手を組んで足を組み見下すような視線で女王は言う。
「あのさーお前リカちゃんに手出すなよな」
「はぁ?」
目からうろことはこのことだ。後輩にいる女のことを言っているのは分かったが、それがどうして手を出す出さないの話しになるのだろうか。
「リカちゃんだよリカちゃん!かわいこちゃんだよ!」
握りこぶしを作って前のめりになっためぐみがガルルルと牙を剥く。一気に萎えて明後日の方向を向くと溜息とともに言葉を吐いた。
「くっだらね」
「んだとー!!!!!!!」
ぎゃんぎゃん喚く女から視線を外して前を向いた。愛でられることに慣れた女が自分以外に興味を持ち自分以外をかわいいと認識している女が他に興味をもった。昔から自分第一で今もそうだ。世界で一番自分がかわいいとそう思っているのだ。事実、今現在彼女以上の女を好みを差し引いてもいるとは思えない。もっとも己だったらあいつは嫌だ。絶対に。
「ともかくリカちゃんはあたしのなんだからやめてよね!」
「誰のものでもねーだろ、つーかお前ちょう嫌われてんじゃん」
「いいんだよ!私には別の顔があるんだから!」
「なんだよそれ」
正直面白くなかった。
自分以外見えないような女が彼氏よりも友達よりも自分大好きな女が、他人に興味を持ち好意を寄せているのが。いつもの気まぐれだろうとたかをくくっていたのに、この執着ぶりは思った以上だ。
正直面白くない。
これは或る意味でもナルシスなのだろうか。
自分と同じ顔の女が他に目をやるのが気に食わないのは…ただの自己愛に過ぎないのだろうか。愛情とは言い表せないこの感覚をどう表現したらいいのだろうか。複雑に絡む心の糸はいつか解けるだろうか。どちらにせよ、そうだとしたらなんとも気に食わない。
「ホントやめてよねー!」
喚く女がげしげしと足で背中を突っつく。振り返って足首を掴み動きを封じると蹴り上げようとする。それを受け止めて立ち上がり彼女に言い放つ。


「かわいそうな女」

顔を近づけて下から睨めば色素の薄い瞳が大きく開かれて同じく睨む。眼に映る俺がかわいそうな顔をしている。
かわいそうなのは俺も同じだ。


「そっくりそのまま返してやるよ」


毒づいた女の眼は世界の頂点にいる、女王の目だ。
作品名:可哀想な俺たち 作家名:いつも