二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

【土沖】酔っ払い土沖で土方誕生日話

INDEX|1ページ/1ページ|

 
役に立つものを重宝するのは当たり前のことだが、土方は人よりも少々合理主義なところがあった。奴にとっての「役に立つ」は、あのまっすぐとした指の五本のうちに入る誉め言葉なのだ。

もちろん沖田はそんなことには興味がなく、代わりにいつもいかに近藤さんに喜んでもらえるためのことを成すかを考えている。そして今日の夜も、そうだ何か近藤さんのことをとびきり喜ばせてあげられるすべはないものかしら、そういうことを考えた。なんでということはない。なんだかもう、一度思いついたらそういう気分がめきめきと育って胸中を支配しきってしまったのだ。

しかしあの素晴らしい人に何かをするというのならば手が足りない。それなので不本意ではあるが、天敵、しかしとある一点(つまりは近藤という存在に対して)盟友である男に声をかけてみた。
ちなみに、我らは酔っ払いである。(けれど、そんなに酔っていないので、大丈夫であった。)

「ねえ土方さん」
「あー」
「提案があるんです。今日一日、俺たち近藤さんをめいっぱい甘やかしてみるというのはどうだろう」
「……、はあ?」

畳にどっかりと片膝立てて座り込み、杯に口をつけていた土方は怪訝な顔をする。そのあと振り返って背後の時計をじっと確認し、さも「今日一日があとたった二時間しかないことを理解していないのかこの馬鹿は」と言いたげな顔をした。そんなことは分かりきっている。それから、土方が常識にばっかりとらわれて柔軟な考えを持てない不幸なひとであることも知っている。あと二時間だろうがなんだろうが、してやりたいものはしてやりたいのだから仕方がないではないか。

「ほら。寄越せ」
「はいよ」

沖田が空になったコップを渡すと、土方は酒を指の第二関節くらいまで注いでくれた。男の手酌は出世しないのでよくないからだ。けれど多分、本当の目的は沖田が勝手に生地の酒をぐいぐい飲んでしまわないようにだろう。仕方なく、氷をふたつぶちこんで水と混ぜる。
そういうことをさっきから長い時間繰り返していた。酒屋で知った銘柄が目に付いたという理由で買ってきた麦焼酎は、殆どと言っていいほど癖がない。飲みやすいものだからぐいぐい煽って煽って、何杯目かの自分の水割を指でおざなりに混ぜた土方が溜め息をついてこちらを見た。

「近藤さんに何かしようってのは別にいいけど、何の名目でだよ」

別にいいのか。
この人もやっぱり近藤さん好きだなあ、だって近藤さんだもんな…。ぼんやりしてくる頭でそう思いながらも沖田は首をかしげてみる。近藤へ何かするのに名目が必要だったとは微塵も考えつかないから、はてさて困ってしまった。

「えーと、誕生日?」
「九月だろ! 今は五月だ」
「なんでもいいじゃん。第何回め姐御にフラれた記念とかでいいじゃん。もうなんかめんどくさい」
「もはや追い討ちという名の嫌がらせになってんじゃねーか!」
「ちっ。がたがたうるせーなあ、じゃあいい。もうやめまさァ。もうやめて今度は、土方さんにしよう」

沖田は畳に手をついてずいっと、目の焦点が合わなくなるくらいに顔を近付けた。避けたり遠ざけたりする素振りがちっとも見えないので、ははあこの人相当酔っているな、情けないと沖田は自分のくちびるを舐める。

「ん、そういえば、誕生日いつでしたっけ?」
「先週だよ。なんだ、殊勝だな」
「気まぐれでさァ」
「でもお前、お前がなんか出来んのか。アホ総悟」
「…………、あれ」

そういえば、なあんにも出来やしなかった。
あれあれ、困った。沖田はぎゅっと眉根を寄せて、そうすると睫毛が土方のそれと重なるような感じがした。そういえば沖田は、討ち入り以外ではまるで彼の役になど立たなかったのである。

「ねえ土方さん」
「ん」
「やくたたず、って言って」
「なんでだよ」
「いいから。言って、言ってくだせェ。お願いでさァ」

土方と触れた睫毛から、(どのように言えばいいのだろう。息を飲むようなどきりとしているような、でもそんな分かりやすいものではなくて)空気がほんのちょっと震えるような戸惑いがうつる。絶対言え、死んでも言え。甘えていたのから脅迫にうつしてみたら、そちらの方がまだ性質がいいという風に息をついて、くちびるを開く。






「やくたたず」
「でもそれでも傍へ置く癖に!」
「うわっ!!」


どうっと抱きついたら引っ繰り返って、ああもう酔っ払いはだらしがねェなァ!ぎゅうぎゅう腕を回したまま笑ったら「酔っ払いはテメェだろ!!」と怒鳴られた。何を訳の分からないことを言うのか。

「つくづく、俺が土方さんの役に立たない生き物でよかったなァ」
「あーそうかわかった、わかったから離せ。吐く」
「今の俺ならそれも許しやすぜ」
「そんな行き過ぎた許容はいらねー!」

なんだなんだ、べったりくっつきたいような、せっかくそういう気分だったのに。土方が思うままにならないことへくちびるを尖らせたら、お前は本当に無駄と過剰で半分くらいが構成されているなとうんざりされた。

沖田は目を瞑り、呼吸をし、いつしかそのまま眠る。朝起きたら全てが殆どそのまんまだったので、土方に回しっぱなしで痺れた手を握り締めながらそんなことを思った。(なんだ、本当に、「役に立つ」以上の誉め言葉だ。)