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モーニングコーヒー

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タイを締めようとしたところで携帯が鳴った。
「もしもし」
『静雄?俺』
 それは聞き慣れた声だった。ほぼ毎日聞かされる声、と言い換えてもいい。
「トムさん」
『今お前の部屋の前。開けてくんねえ?』
 いつもこうだ。この先輩ときたら、チャイムの鳴らし方を知らないか、よっぽど携帯と仲がいいらしい。
 まあ大体この時間に来るなというのはわかっていたからこっちも身支度をしていた訳だからして、今更異議を申し立てたりはしない。タイを鏡の前に置いてから静雄が素直に玄関に行きドアを開けると、スーツ姿ではないトムがそこにいた。
「今日は仕事なしっスか?」
「そー」
 広くも狭くもない玄関でトムは靴を脱いで、ずんずんと部屋に入っていってこれが当然とばかりにソファに腰掛ける。
「……なんだよ」
 思わずジト目になったのを気づかれたらしい。静雄はソファの向かいにあるベッドに座って。
「俺も大概不遜っスけど、トムさんも案外横柄だなってちょっと思っただけっす」
「なに、嫌い?」
「や、それは全然」
 別ににやけ笑いを浮かべるでもなくかといってふざけるでもなく、会話は淡々と進む。いつもの光景だ。いつもと違うことがあるとすれば、ソファとベッドの間のテーブルにおいてあるコーヒーカップからまだ湯気が立っていることだ。着替えたら飲もうと思って普段置くベッド側ではなくソファ側に置いてしまった、その程度。
「あ、なに、飲むの?」
 静雄の目線に気づいたらしいトムがカップを滑らせて、いつものとおりのベッド正面やや右側にセッティングする。――そんなたいそうなものではなく単に静雄の前に差し出しただけだが。
「はぁ、まあ」
 言ったはいいものの静雄の中でコーヒーを飲もうという気持ちは失せていた。仕事が休みと聞いたからには、眠気覚ましのモーニングコーヒーはもう必要ないからだ。
 だからコーヒーを素通りして灰皿を取ると、ポケットから煙草とライターを取り出して火をつけようとした時に。
「ちょっと待った、なんでコーヒー飲まないわけ。俺が触ったのが気に入らないわけ。それともなに今すぐ煙草吸わないとと死んでしまう煙草星の王子だとでも言うわけ?」
「一言もそんなこと言ってないっスよ」
 ささいな言いがかりをたてつづけにまくしたてられて、それでも従うところは従って手に取った煙草をケースに戻し、ライターと一緒に机の上に置く。
「よろしい」
「何で得意げなんトムさん……」
 とほほという気分で下を向くいて呟くと、トムがソファから立ち上がって静雄の横に立つ。
「?なんです?」
「しない?静雄」
 肩に手をかけられてようやく自分が誘われていることに気づく。
「もしかして、煙草吸わせまいとしたのは……」
「勿論、ヤニ臭いのが嫌だから。俺が」
「自分も吸うくせに」
 それでも一時に比べると大分減ったというかすでに禁煙成功の域に入りつつあるが、週に一度から日に一度程度の割合でトムがたばこに手を出していることは静雄もよく知っている。
「こういう時には煙草のことくらい忘れようぜ、静雄」
「まぁ、いいっスけど……休みの朝からセックスねぇ」
「いいじゃん、俺ららしくて」
 それにはたしかに頷く。らしいし、そこがいい。そして煙草のことは忘れることにした。
 やっぱりコーヒーは冷めちまってんだろな、とコーヒーのことは忘れずに考えながらも。

<終>
作品名:モーニングコーヒー 作家名:y_kamei