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【腐女子向】君の知らない物語【蛮銀】

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銀次の、右手のこぶしから人差し指と中指がたてられたいわゆるチョキが蛮の顔面、両目を狙って容赦なく突き刺さった。
蛮は常にサングラスをしている。幸いそれが指をガードしてくれたが指はお構いなしに突き進み結局サングラスごと目玉を襲う。

時刻は深夜近く、新宿中央公園前の道路に駐車されたスバル360の中で蛮と銀次の二人は喧嘩をしていた。

「痛ぇだろ!?俺の大事な体に何してくれてんだ!?」
ひとしきり悶絶した後、蛮は左手で銀次の胸ぐらをつかみながら右手でゴスゴスと頭を連打する。銀次は痛い痛いといいながら闇雲に手足を振り回して右足が偶然相手の腹に思い切りめり込んだ結果、運転席ドアへと背中で体当たりする程度に蛮は飛ばされた。
「お~ま~え~…」
「俺は絶対悪くないかんね!蛮ちゃんが悪いんだかんね!!!」
腹を押さえながら蛮が低くうなれば、銀次もこぶだらけの頭を押さえて涙声で反論する。
「絶対!絶対蛮ちゃんが悪い!!」
「あぁん!?」
助手席から運転席へ身を乗り出して主張する銀次と、運転席から身を乗り出す蛮の額同士がゴチンとぶつかるがそのまま二人はどっちもひかずにグッと睨みあう。
「だって!だって絶対おかしいじゃんか!今回入ったお金!多くは無かったけど少なくも無かったのに!!!」
「だから、だからってお前ぇどうしてそういう発想になんだよ!」
先ほどから銀次は泣きはしないがその一歩手前という顔だ。蛮と殴り合ったのが原因のようで、そうではない。
「だって…」
最初の勢いがあっという間に萎んで、泣くまいと鼻をすすりながら気持ち顔を上に向ける。けれど蛮を睨むのはやめない。
「あーもう、そりゃ確かに奪還料10万、俺らの借金を考えると焼け石に水みてぇな金だ!」
「…どら焼きにミッキーって何」
「ちょっと黙ってろ」
「あい」
いつの間にかタレていた銀次が目をゴシゴシとこすって涙をどうにかしようしていたが、蛮がそんな擦ったら目に良く無ぇだろがボケとやめさせる。うぐぐと悔しそうなタレを抱え、一度蹴りつけられた腹を払い運転席のシートを倒して仰向けに寝転ぶと、蛮はそのままタレをうつぶせに乗せた。タレは蛮の黒いセーターに顔を押し付けてぐりぐりと妙な攻撃をしてくる。腹がじんわり湿ってきたような気がしたけれど蛮は気が付かないフリをした。
「何の話だったか…」
「どんどん焼きにミキティーです」
「そうそう、俺らの借金からしたらはした金の奪還料な」
「あい」
「とりあえず波児にゃまた待ってもらって」
「スバル君を直してくれるお店のツケは三分の一だけ払うんで今回は勘弁してもらった」
「ケータイの金だけとにかく払って」
「最終的に残ったのは四万三千円のはずなのです」
「俺らなんかなんだかんだ甘やかされてるよなー…」
「皆いい人達だよね」
蛮が気付きたくなかった、という顔をする。
「なのに!」
そこでタレががばっと起き上って蛮の顔までヨチヨチと這いつくばって迫ってきた。
「なんでお財布には一万円しか無いの!?」
おかしいよね!!??
ぷにぷにした手で蛮の両頬をペチペチと叩く。
「だ~か~ら~」
「どこのお姉さんに使ってきたのー!?」
憤りを抑えきれなくなったのだろう、タレはもだもだと蛮の胸でゴロゴロ暴れだした。
「なんでそうなんだよ!」
「だってこの間も歌舞伎町でおっぱいの大きいお姉さんをヘラヘラ見てたじゃないか!」
「なんか頭悪そうだし上手くすれば飯おごらせられねーかなって考えてただけだ!!」
「蛮ちゃん酷い!!女の人をなんだと思ってんの!!??」
「お前ぇは俺にどうして欲しいんだよ!?」
「女の人見ないで!!」
「見て無ぇよ、使え無ぇかなって考えただけだろーが!!」
「それもダメ!!もっとダメー!!!」
「ぐえっ」
タレが蛮の腹の上でトランポリンのように跳ねだす。流石にこのダメージはきつかったようで慌ててタレを掴むと助手席に放って起き上った。蛮が運転席を戻す間に銀次もタレから戻る。
「とにかく女になんか金使って無ぇよ…」
蛮が渋い顔で銀次に言うが、銀次は信じられませんと睨んで返してきた。
「特に前科も無ぇのになんでそんなに俺が信じられねぇんだよお前ぇ」
「前科ならあるでしょ!」
「は!?」
本気で思い当たらないのか蛮が目を白黒させる。
「チャイナタウンで美隷さん達に大喜びだったじゃないか!」
「ありゃ…」
「お金に困るとすぐ女子高生とかお姉さまたちとかに寄っていくし!」
「おいおい」
「何!?」
蛮の呆れたような態度が気に入らない銀次はすっかり蛮に対して語気も荒い。
「チャイナタウンは相手の作戦に乗っただけだじゃねーか。あそこで釣られたフリしても女と遊ばなかったら不自然だろーがよ、全部作戦だ作戦」
「…」
「女子高生どもにしたって基本俺が使うんじゃなくてあいつらに使わす気で寄ってるだろうが、俺は女に金なんて使ってねーっつの」
「…」
「信じろよ、銀次」
蛮の言葉を聞いて強気だった銀次がだんだん顔をうつむけていったのを、そっと右手で支えて上に向かせる。
「銀次…」
「ごめん…蛮ちゃん…」
「何、わかってくれりゃいいんだ」
「…?」
ここで本来の蛮なら、濡れ衣で散々な目に会わされたのだ、おしおきの宣言をして無体の一つ二つも要求してこようものなのに、いやにあっさり引き下がるのが銀次の不信にまた火をつけた。
「…蛮ちゃん?」
「おう、どうした」
蛮は話は終わったとばかりに運転席に座りなおしてマルボロを一本取り出し火をつけている。
そもそも喧嘩の原因はなんだったか?
蛮の女性問題だったろうか?
「蛮ちゃん」
「だからなんだよ、銀次」
「で、結局なんでお財布には一万円しか無いの?」
銀次は使っていない。だとしたら蛮しかいないのだ。
「…」
「蛮ちゃん…」
覚えてたのか…そういう顔で蛮が銀次を見た。ごまかしきれなかったのが酷く残念でたまらない、そういう顔だ。
「いや…なによ、四万三千円って心許ねーだろ?まだ月始めだしよ、依頼がありゃいいけどよ」
「うん?」
「いっちょドカンと増えたら一か月安心できるだろ?」
「…蛮ちゃん?」
「そんでちょっとお馬さんに…」
「蛮ちゃん?」
「本命につぎ込むよりやっぱ大穴狙いの方がよ、額も違うしよ」
「ちょっと」
「いやー、でもやっぱ大穴はダメだな、来ねーから大穴なんだよな!」
蛮は銀次を見ずにカラ笑いで話続ける。

晴れた夜空へとスバル360から雷が飛び出すまであと10秒。