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Elona春のSS祭2013

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mahoutyunenのお題は「生まれたての農夫」です!
できれば作中に『真実』を使い、《機械のマニ》を登場させましょう。
#ElonaSSfesOdai http://shindanmaker.com/331820

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ここイルヴァにおいて機械を統べる神マニと、農耕を支える神クミロミは対極の位置に座すものと思われがちである。しかし事実は、クミロミ神は争いを好まず、マニ神はただひたすらに無関心であった。利権争いとは程遠い場所にいた二柱が、いっとき恐ろしいまでに険悪な状態に陥った事がある。

ある時代、クミロミは一つの死地を蘇らせようと試みた。
かつては名を知らぬ者などいないとまで囁かれた、非常に美しい湖沼の広がる静かな土地であったが、邪神の手引きによる人間の大規模な抗争により、軍獣に踏み荒らされ、永続的な汚染を引き起こす魔法を行使され、見るも無残に蹂躙せしめられた地である。その終結から既に幾世紀も過したというのに、茫洋と広がる荒野は緑を育む事はなく、また何らかの支配下にある訳でもなく、ただ見捨てられていた。
気紛れに訪れたクミロミは、その場所に住まう老翁の、いまわの際に漏らした感謝の言葉に心を動かされた。すべての神々に、ささやかではありながら篤い信仰を持ち、静かに、善良に命を全うしたその人は、実りを与えてくれる事の無かったその大地を愛し、汚れた水と共に生きたのであった。
クミロミは、誰にも見捨てられた老人と、その土地の若き日々を読んだ。彼が己のみを信仰していない事で、気付くことのなかった祈りを呼んだ。老人は辛く孤独な人生に満足して死んだ。ただ、己の死骸を晒すことにより、愛した場所を一時でも損なうことを悲しんでいた。
「せめて彼の魂を、穢れたままにしてはおくまい」
クミロミは、かさかさに乾いた老人の遺骸をそっと地に還した。その時、彼の霊指はその地の水脈に触れた。汚れていた源脈は、密やかに微かに清涼な力を蓄え、かつての豊潤の気配を感じ取れる。そこへ新たに一つ、魂が浸透し、拡散してゆく。

クミロミは他の神々に乞い、穢れを亜空へ閉じ込め、傷ついたものを治し、地脈を整え、清らかな風を送り、枯れ果てた泉に水脈を導き、そしてかの老爺が伏した場所へ、クミロミの最愛たる幸運の女神エヘカトルと共に、復活を祈った。神々の力を得た大地は瞬く間に息を吹き返し、神の季節においてたった数時のうちに、瑞々しい草原へと変貌を遂げていた。

このときただ一人、クミロミと近しいながら関わらなかった神がいる。機械のマニである。クミロミはただ、歯車の哲学に没頭していたマニを視、邪魔をすまいと去っただけなのだが、マニをこころよく思わぬ数柱が彼を薄情と罵ったのだった。
マニは、老クミロミの、植物や信者を愛する心というものは理解出来なかったが、しかし傾ける情熱の思いには敬意を抱いていたので、今からでも何かできないか、と思い巡らした。
クミロミが一人のつまらない人間に心を砕いて神の力を削り、神の力の基となるものの存在しない、くだらない土地を「整地」したと知り、益々にいぶかったが、もとより他者のこころもちなど不可解であると思考を放棄しているマニは、ならば磨り減ったクミロミの力を手っ取り早く恢復させればよい、と考えた。


疲労し眠っていたクミロミは、不思議に力の湧く感覚に目覚めると、悪い予感に疑問を抱きながら、急いで、若い木々の茂り始めたであろう彼の場所へ赴いた。そこには爽やかな朝の瑞光に充ちた幼い木々のざわめきと、麗しい露に輝く植物たちが、泉と老人の墓を覆う静謐な光景が広がっている筈であった。
しかし、そこにあったのは、同じ顔をした大勢の朗らかな農夫たちがせっせと土地を開墾し、泥だらけの足で泉を汲み出し、若木を刈って薪とする実に精力的な風景であった。紅色の頬をほころばせ、健康で善良そうな人間たちは皆、例の老人の若かりし頃と寸分たがわず、しかし皆クミロミを信仰しているのだった。
機械神マニは、農耕の神クミロミの神力を取り戻させるためにあの老人の複製を量産し、農を教え、クミロミが救った地でクミロミを讃えながら繁栄し、大きく豊かに広がらせよう、それも迅速に、と、真実善意を持って、力を行使したのであった。

言うまでも無く、老人の静かに満足して朽ちた心も、彼の生前の祈りも、それらを汲んだクミロミの活動も完膚なきまでに無意味となった。あげく、あの老人が平和で豊かな土地を与えられ、異なった教育を施されてあったなら、こうも幸せな笑顔を浮かべ、仲間と楽しく過ごし、繁殖域を広げるために破壊をいとわないことを見せ付けられたのである。
クミロミは黒々とした怒りを覚えたが、しかしマニの作ったものとはいえ、心を動かされた人間と同じようなもの、そして純真な信者を破壊することも出来ず、沈黙のままその地に背を向け、マニによって復活した力で渾身を込めて、マニに殴りかかったのだった。


様々な誤解ほどきを経て、マニとクミロミが以前の関係を取り戻すには、長い長い時間が経過したという。
作品名:Elona春のSS祭2013 作家名:mt0ug