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「妬きましたか?」
「…は?」


小指で耳をほじってみても、古泉は相変わらず張り付いたような微笑を崩さない。同じ言葉を二度繰り返す意思はない、ということか。
しかし俺だって伊達にこいつと一年近く…大変不本意ではあるが…何かとつるんで来た訳じゃない。この男が俺の時空移動話にこうも興味を示した理由が、どうやら俺にこの質問を投げかけるための壮大な前振りであったらしいという結論には程なく達した。ついでに「やく」の漢字変換は九割五分ぐらいの確率で「焼く」ではなく「妬く」であるという事も。相変わらず面倒な野郎だよ、お前は。


「誰が、誰に妬くって?」
「貴方が、僕にですよ」


しれっと言いやがる。何が悲しくて俺がお前に妬かなきゃならん。第一妬くってのは恋人を寝取られたとか恋人が別な相手といちゃいちゃしてるとかそういう場合に使う単語だろうが。俺とお前は一人の女性を取り合う仲でもなければ、増してや互いに拘束力を持つコイビトドウシなんかでは断じてない。よって俺がお前に妬く理由もない。以上、QEDってやつだ。


「本当に?」


その張り付いた笑顔をやめろ。人のアンサーに無意味に疑問符で返すのもだ。せめてもっともらしい論拠を一緒に申し立てるなら聞いてやらんこともない。
古泉の捉え処のないのはいつものことだが、今日はそれが特に酷い。さっきまで俺を促して話をさせていた内容と突然の問いかけがこれっぽっちもそぐわない。…古泉的には何の問題もなく繋がっている話題なんだろうがな。そんなことは、古泉当人しか知り得ない。


「これは、失礼を」


左足を引き、右手は優雅に弧を描いて腰の前。完璧な一礼と言うやつなんだろうな、これは多分。
僕が疑問に思った内容は、貴方にそんなにも警戒されるべきことではありませんよ。罪のない微笑でしれっと言ってのけるが、生憎とその言葉を素直に受け取る気には俺にはなれなかった…ひとえに、古泉の浮かべた罪のない微笑ゆえに。


「貴方を知らない涼宮さんの隣に当然の如く立つ僕に、或いは、貴方を知らない僕の隣に立つ涼宮さんに」


…ああ、全く案の定過ぎて泣けてくるね。その罪のない微笑を貼り付けたまま、特大級の地雷をいとも容易く踏みやがる。古泉のその、表面的には平穏そのものの表情を鷲掴みにしてでも黙らせるだけの気力すら湧かなくなるほどのだ。


「貴方は本当に」「ああ妬いたしムカついたし軽く絶望も感じたね。これでお前は満足か?」


我ながら、突き放す言い方をした自覚はあった。自覚はあったが、止めようもない。アレから、あの冗談のようなSOS団の消失劇から経過した現実時間は一ヶ月に満たない。俺が幾ら超常現象慣れしてしまったとはいえ、あのテの衝撃はそうそう簡単に消えるもんじゃないんだな。
古泉は瞬間呆けた顔をして(俺の観察眼がまだそう捨てたもんでもないのなら、古泉の表情は全くの【素】のそれに見えた)、次いでその呆け顔を少しだけ歪ませて(母親に本気で叱られた子供が許してもらうための言い訳をあれこれ考えるときのような)、結局は当たり障りのない、けれどこんなシーンには最も相応しいであろう単語を紡ぎ出す。


「……すみ、ません」


そっぽを向いた視界の端に、途方に暮れた子犬の風情で立ち尽くすひょろ長い影が見える。これはこれでかなりレアな図だ。益体もないことを考えながら、俺は勤めて唇を不機嫌な方向にひん曲げる。
常々思うのだが、こいつはどうも俺を過大評価しすぎなんだろうな。身内に…少なくともSOS団の団員に、対して俺が持っている許容量とかそういうものがどれだけあると思っているのか。少なくともそれは無限ではないし、更に言うなら古泉が思っている以上に少なかったと言うことだ。

けれど。


「…分かれば、いい」


けれど俺の許容量とやらは、どうやら俺が思っている以上には多かったようで。万年笑顔仮面の古泉がしょぼくれた野良犬みたいな顔をしている図に、してやったりと思えたのもほんの一瞬だけだった。俺はひょっとして仏陀か何かの生まれ変わりなんかじゃないんだろうかと最近真剣に思わない事もない。
立ち上がり部室のドアへ向かう背中に古泉の視線を感じる。何か物言いたげで、けれど言いあぐねているのはまあ、俺のせいということなんだろうな。全く調子が狂うことこの上ない。地雷を踏まれてあっさりブチ切れた俺も俺だが、まさかお前がそこまで萎縮しちまうとは想定の範囲外もいいとこだ。
この借りは高くつくから覚えておけよ。とりあえず暫く俺の替わりにハルヒのストッパー役な。


「…それは、全く…高くつきました、ね」


言い置いて部屋を出る俺の耳に届いた、少しばかり掠れた声には確かに安堵のようなものが含まれていて、なんだって俺がこんな加害者的後ろめたさを味わわなきゃならんのだ。今のはどう控えめに見ても古泉が全面的に自業自得だろうが…ああ、もう、面倒臭え。
 
 


「何やってんだ、一人部室でハルヒの余興案でも考えて夜明かしする気か?そうでないなら帰るぞ、ほれ」




その瞬間古泉の顔に浮かんだ笑顔ときたら、俺は暫く忘れられそうにない。良い意味でか悪い意味でかと聞かれるとまあ微妙に答えに詰まるところではあるが、まあ別に吐き気を催したり三日三晩魘されたりする類のものではなかった、とだけ言っておこう。親愛なるSOS副団長殿の名誉とかなんかそういうもののために。
作品名: 作家名:蓑虫