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バレンタイン詰め合わせ

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雪シュラ



私立正十字学園高等学校。
放課後、奥村雪男は校庭を歩いていた。
その手に紙袋をいくつか持っている。
今日はバレンタインデイ。
昔はひ弱で泣き虫のいじめられっ子だったのが、今は背が伸びて体格も良く、さらに高等部入学式の新入生代表に選ばれるほど学業成績が優秀で、いつのまにか女子から熱い視線を向けられるようになっていた。
そのため、チョコレートはたくさんもらった。
さっきも手紙で呼びだされたので、断ることも無視することもできなくて行ってみたら、「私とつきあってください」という告白つきでチョコレートを差しだされた。
ただし、それは受け取らなかった。
彼女だけではなく、本命チョコはすべて断った。
今、手に持っているのは、義理として渡されたものと、机などに置かれていてさすがに返しに行くのもどうかと思ったもので、カバンに入りきらなかった分である。
ふと。
「奥村くん」
明るい声で背後から呼びかけられた。
その声に聞き覚えがあった。
しかしいつもとは呼び方が違うので、なんだかイヤな予感がした。
雪男は立ち止まり、振り返る。
正十字学園高等部の女子生徒が立っていた。
いや、正確には正十字学園高等部の女子生徒の格好をした女性と言うべきだろう。
何年か会っていない期間はあったが雪男が幼いころからの知り合いだ。
霧隠シュラ。
とおに成人しているが、制服姿がそれなりに様になっている美人だ。
シュラは満面の笑みを雪男に向けている。
「ずっと好きでした。受け取ってください」
弾んだ声でそう告げると、なにかを差しだしてきた。
チロルチョコだ。
どうせ、自分で食べようと思って持っていたものだろう。
からかっているのだ。
雪男は重いため息をつきたくなった。
恥ずかしくないんですか?
そうシュラに言おうとした。
しかし、思い直す。
堅い表情をしていたのが、にっこり笑う。
「わかりました」
雪男はシュラのほうに手を伸ばす。
「受け取りましょう」
だが、シュラの差しだしているチョコレートではなく、シュラ本人をつかまえる。
シュラがぎょっとした表情になる。
「おい……!?」
「僕もあなたのことが好きだったんです。最近やっと気づいて、どうしようかと思っていたところでした」
「ウソだろ!!」
「嘘じゃありません」
雪男はよく晴れた空のように笑いながら、言う。
「本当に良かったです。あなたから言ってもらえて」
「冗談に決まってるだろーが!!!」
「だから、お持ち帰りさせてもらいます」
「ふざけんな! ビビリメガネのくせに!!」
言い返してくるのを聞き流し、雪男はシュラをしっかりとつかまえたまま笑顔で歩きだした。












作品名:バレンタイン詰め合わせ 作家名:hujio