【家三】小言
それもそのはず、鳴らしてきたのは言わずもがな徳川家康。
三成が最も嫌う相手だ。
どうせだから直ぐ切らず、アイツを苛つかせてみようか。
そう思い、三成は家康の着信を無視しているのである。
「……っ、まだ諦めないのか……っ…!」
全く途切れる様子をみせない携帯の着信音に、逆に三成が苛ついた。
軽くノイローゼになりそうな程の時間、それは止まらず鳴り続ける。
「く……っ!」
遂に三成の方から応答する。
「もしもし」
そして、そこから家康のいつも通り良く聞こえる声が響く。
なぜか一瞬ドキリとしてしまう三成。
「……貴様、私に言う事はないのか」
「え?」
受話器越しで、家康が間の抜けた声を漏らす。
「私は直ぐに応答しなかったではないか…そのことだ!!小言でもいいから何とか言え!」
「何か言えと命令されてもなあ……」
苦笑して答える家康。
「ああそうだ、わしと一緒に行って欲しい所が……」
「断る」
ばっさり。
「まあそうだろうな、ハハッ!だがな三成、半兵衛殿と秀吉殿が通ってる店だぞ?」
「なら行く」
また家康の笑い声が脳に満ちる。
「それとな、もう少し早く決めてたら、2人に会える可能性も有ったぞ」
「……なぜそれを先に言わない!」
「直ぐ応答しなかったのはお前だぞ?」
そう返され、三成は思わず声をつまらせた。
「……な?わしが小言を言わんでも思い知ったろ?」
「貴様はつくづく人が悪い……」
そう言ってくれるのはお前くらいだ、と家康が笑う。
嫌味か、と三成が返答する。
そんな中、突然家康の嚔(くしゃみ)が響いた。
「……あー、すまん。で、どうする?三成。もしかしたらまだ2人とも居ると思うが」
それに、と家康は付け足した。
「わし、今お前の家の前にいるぞ」
どこのメリーさんだと悪態をつきつつ、三成は言った。
「……気が変わった」
「え?」
先程の様に驚いた声の家康を最後に、通話をオフにする。
家の階段を駆け下り、玄関を通って扉を開ける。
「おい家康、上がれ」
突然三成が目の前に現れたことにまた驚かされた後、家康は笑みを形作った。
「三成は優しいな」
「意味の分からぬことを抜かすな、私の気が変わっただけだ!」
「ハハッ、そうか」
むっと三成は顔を顰めつつ、家康を家の中に引っぱりこむ。
「早く上がれ、馬鹿が」