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その重さ

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「私は生まれながら死んでいる。死にながら生まれている。私の在り様は君や恒巧とは、君たちとは、人間とは、違うのだよ」
「なるほど、お前は確かに私の知る機械人とは違う個体のようだ。私の知るアミシャダイは最悪の兵器だったよ。地球人にとっては、少なくとも、そうだ。そうだった。似合わない一人称で喋り、地球人の魂の安らぎを祈る、そういうアミシャダイを私は知らない。フムン、ならば私は君に、はじめまして、と言うべきなのかな」
「君の名前は記憶している。はじめまして。梶尾少佐」
「おかしなものだ。あのアミシャダイが友人のために、人間のために、単身アイサックを破壊して帰ってきた。そして今、私に、はじめまして、と言う」
「君の認識には一箇所だけ誤りがある。私は恒巧のためにアイサックを破壊したのではない。言っただろう、機械人にとってもまた、あれは途方もなく危険な知性体だった」
「融通が利かないところは相変わらずだな、アミシャダイ」


傍から見ればどちらが機械人なのか、どちらも機械人なのか、判別のつけようがない重武装の下で人間の目が笑う。その笑顔はずっと昔にアミシャダイが見たものと同じ人物の、同じ表情であるはずなのに何故か不思議な温かみを含んでいるように感じられた。感じる、機械人が、人間と同じ感情を?


「たとえばアイサックが、お前や火星全体に対して及ぼす影響が今回より遥かに、無視しても構わない程度の小ささだったとしても」
「その仮定には意味がない。アイサックは実際に危険な代物だった。だから壊した、もうどこにもない」
「最後まで聞け。そうだったとしても、たとえ……何と言ったかな、あの子、火星の帝王は」
「真人だ」
「そう、真人だ。その子が何の力も持たないまま、ただ火星の帝王を自称するだけの可哀想な子になるだけ、アイサックのもたらす影響がほんのそればかりのものだったとしても、お前はきっとあれを、同じだけの危険を冒して、壊しに行ったろう。お前が何かの不利益を得るからではない、お前の友人が、帝王を名乗ったあの子の父親が、お前に助けを求めたなら、それに応じてお前は、行く。そう、私には思える」
「恒巧は私の上司であり、友人だ。恒巧がそれを願うなら、私は私の手に負えるところまでを請け負う義務がある。恒巧もまたそうするだろう。そういう男だ。ふむ、なるほど。アイサックが私にとって害になるから行った、恒巧のためではない。私の言葉は確かに矛盾しているようだ。だが、君が何を言いたいのかはまだ分からない」
「私の言いたいことなら今お前が全部言ったじゃないか。お前は友人のために尽力するということを知った。誰が教えたのか私は知らないが。そして友人がいる、永遠を生きる機械人と、人間の間にそんな関係性が生まれるなんて私たちの誰もそんなことを思わなかった。そうやって時代は変わっていく、お前が変えた、些細なことかもしれないが。私が、それを、おめでとうと言うことはそんなに可笑しいか」
「恒巧が私に教えたことと言えば、絵の描き方だけだった」
「それはいい」


梶尾は笑んだまま、もう一度、それはいい、と言って小さく頷いた。


「私にもう少し時間が許されていれば見たかったな。どんな絵を描くんだ」
「見ればいい。君たちがいつかまた目覚めて同胞と共に地球へ帰る日、その日まで私も生きているだろうから。全てを終えてからでも遅くはないだろう。機械人は死なない。死にながら生まれ続ける」


「それはいい」
「三度目だ、梶尾少佐」
「機械人と約束を交わす日が来るとは思わなかった」
「おれもだよ、地球人」
「お前なのか、アミシャダイ。あの戦争で互いに互いを殺しあった」
「少し君と話しすぎたようだ。古い記憶から順番に、完全に消えている筈なのにな。おれはずっと昔、こんな風だったのだと思い出してきたようだ」
「憎しみも思い出したか、地球人への」
「いいや」


アミシャダイは、そのとき、私はひょっとしたら笑っていたのかもしれない、と思う。随分後になってから、そう思った。


「……いいや。おれが思い出したのはたった一つさ。あの戦争で、屍体が延々と横たわる戦場で、おれは祈っていた。今も祈ろう。眠る君たちのために、地球人のために、地球で眠る地球人のために」
「あなたの魂に安らぎあれ」
「あなたの魂に安らぎあれ。さようなら、梶尾少佐。また会える」
「ああ、また、目覚めの日に」
作品名:その重さ 作家名:蓑虫