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Aに救いの手を_サイレント・キーパー(仮面ライダーW)

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(・・・・・・まぁ相手はぱっと見中学生。こんなヤツにマジギレしていたらこの街の探偵代表の地位(自己申告だが)が疑われちまうな)
この探偵事務所では翔太郎が一番の古株である。
名義上、亜樹子がこの事務所の所長になってはいるが年齢的にも探偵としての経験値的にも翔太郎は彼女より格段に上をいっていると考えていた。
その根拠と理屈に欠ける翔太郎の自負心が彼女に一言物申さなければならないという義務感を駆り立てる。
(・・・・・・仕方ねぇ。ここは一発、大人の、いや! 探偵の懐の深さってやつをみせつけてやるしかねぇようだな!)
何だかよく分からない方向に気合を入れ直す翔太郎。
シャツの襟を正しゆっくりとした口調で、いかにも私は街のダンディな探偵です、といった調子で亜樹子に言って聞かせる。
「オイオイ、分かってねーな、お嬢ちゃん。
・・・いや、実際分かってなさすぎだよ、お前は。
いいか? 男の仕事の良し悪しってのは、金じゃ決まらねぇ。
その仕事がどれだけ渋いかってことに尽きるのさ。
そう。だから俺は、いや! 俺達は金じゃ動かない!
このダンディな俺にとって報酬なんてもんは二の次、「ほわたー!(ぱこん!!)」って、痛てー!!」
会話を割って亜樹子のスリッパが炸裂!
「こ、この女、俺がせっかく深くて良い話をしているときによりにもよってスリッパで割り込んできやがった・・・・・・っ!」
翔太郎は涙目になり頭をさする。もう落ち着くとかダンディとかいった単語から程遠い状態になっていた。
「レィディやってゆってるやろっ!」
「お前のキレたポイントそこかよ!?」
いろいろ台無しじゃんかもー!と、絶叫する翔太郎。
しかもスリッパの文字はいつの間にか『ほわたー!』にクラスチェンジされている。一体どんな原理で文字が変わったのか気になるところだった。
「やれやれ。相変わらず騒がしいね、君たちは」
そこに第三者の声が聞こえ、翔太郎と亜樹子の言い合いがストップする。
「本当に君たちは毎度毎度飽きないね。季節も寒くなってきて、人々も街も静けさを帯びてきているというのに。君たちに季節感は関係なのかな?」
落ち着きのある、とても静かな声。
若干の幼さを残したその声は、翔太郎や亜樹子よりも年下であるにもかかわらず、対等な口調で発せられていた。
ともすれば、嫌味に聞こえてしまいそうなこのセリフもこの調子で言われると逆に皮肉に感じない。
(・・・・・・ま、しゃべっている本人も皮肉を言っているつもりはないんだろうけどよ)
この口調いずれちゃんと直してやらなきゃな、などと翔太郎が頭の片隅で懸念している人物。
彼は左翔太郎の『半身』ような存在だった。
フィリップ。
それが彼の名前。
珍しい名前だが勿論本名ではない。
れっきとした偽名、というよりかは愛称みたいなものだった。
名前はレイモンド・チャンドラー作のハードボイルド小説に登場する腕利き探偵、フィリップ・マーロウに由来する。
名付けの親はこの探偵事務所の創設者である鳴海壮吉。
フィリップは紆余曲折を経て、今はこの鳴海探偵事務所で翔太郎の良き片腕としてコンビを組んでいる。
男でも女でも通用しそうな中性的な顔立ち。
上は黒と白のストライプのロングTシャツに上から裾の長い濃い緑のノースリーブのパーカーを羽織っている。
下は6部丈くらいの黒のクロップドパンツに茶色のブーツという、なんだか季節感が分からなくなるようなコーディネート。
挙句頭に髪留めを3つも付けているというクレイジーさだが、それが一つのファッションとしてバッチリきまっているのだから余計に始末が悪い。
もし着ている人間が彼ではなければ、街に出て100メートルも歩かないうちに3回は職務質問を受けることだろう。
「ね、ねぇ、翔太郎くん」
突然、亜樹子が心配そうに翔太郎に耳打ちをする。
「なんかさ、フィリップくんの今のセリフ、ちょっと嫌味っぽくない? もしかして怒らせちゃったかな?」
「あん? ・・・・・・いや、多分大丈夫だろ」
翔太郎はフィリップがこのくらいの事で嫌味や皮肉を言う男ではないことを知っていた。
ただ言い方に機微や遠慮がないだけなのだ。
亜樹子もフィリップとは随分長い付き合いになるが、女の子特有の繊細さが時折その口調を誤解してしまうことがある。
「う、うーん、そうなのかな〜・・・・・・」
まだ少し心配そうにしている亜樹子。
「・・・・・・」
翔太郎はその様子を静観している。
しかしやがて、翔太郎は飛びっきりの冗談を思いついたような得意顔になり亜樹子に振り向く。
「こいつは多少心の機微にかけるところがあるが、根は素直なヤツだ。なあに、こいつのことだ、どうせ俺達が言い合いする労力には季節に関係なくはたらく何らか未知なるパワーが関係している、なんて的外れな考えを、」
「いや、待てよ? 季節や時節に左右されない未知のエネルギー機関? 数々の科学者たちが解き明かせなかった永久機関の謎が今そこにある? もしそんなものがこの地球上に存在するのだとしたら、・・・・・・・ふふふ、実に興味深いね」
「・・・・・・ほ、ほらな」
「・・・・・・ぇぇー、うそやーん・・・・・・」
冗談が的中してしまった翔太郎はなんとも言えない気まずさで冷や汗を流し、どんだけ奇人なの、と呟く亜樹子は戦慄でやはり冷や汗を流していた。
しかし亜樹子の不安顔はなくなり、翔太郎もふっ、と口元を綻ばせる。
「ふむ。この二人の行動を観察・分析すれば、面白い結果が得られるかもしれない」
しかし、何かをブツブツ呟きながら時たま不気味にニヤリと笑うフィリップに、同僚の二人は何か背筋の凍る感覚を覚える。
「お、おい、フィリィップ。俺達で妙な妄想してんじゃねーよ。大体亜樹子が無駄に元気が良くて、俺が無意味にそれに付き合わされるのなんざ、今に始まったことじゃねーだろう」
「そ、そうよ、フィリップくん! 私は年がら年中無駄に元気じゃないの! って、クルァァ! 誰が無駄に元気じゃい!」
どごん。
「ぐああっ!」
と、亜樹子は必要以上のハイパワーでツッコミを入れ、それを受けた翔太郎は人知れずダメージを蓄積させていた。
そんな二人の姿をみていたフィリップは、ふっと口元を綻ばせる。
「ふ、もちろん冗談さ」
フィリップの言葉と笑顔にほっと胸をなでおろす翔太郎と亜樹子。
「な、なんだぁ。冗談かよ〜」
「そ、そうよね〜。やだもう、フィリップくんって冗談なのか本気なのか時々分からないから〜」
「・・・・・・半分は、ね」
「「もう半分は本気だった!?」」
鳴海探偵事務所に、男女の声が絶叫が鳴り響いた。