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Aに救いの手を_サイレント・キーパー(仮面ライダーW)

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現役時代に行っていたとおり、慣れた手つきで子供の腕に手術器を使い生体コネクタを取り付ける。
もう何十回も何百回も続けきた、忌むべき作業。
さらに神父は部屋にある厳重な金庫のダイアルを回し、その扉を開ける。

なかにはいくつかのUSBメモリのような端末機械が何本かあった。
すべて宮部が研究・調整してきたガイアメモリ。
明日のため、人類のため、さらなる進化のため、と自分のしていることを信じて何も疑わなかった、あのときの希望の結晶。
そして、宮部の唯一の心の支え。
"別にドーパントとして適合しなくても良い。意識を醒ますきっかけになればいいのだ"
ガイアメモリは人間の人体だけではなく精神にも影響を与える。
その力を応用すれば、あるいはこの子の目を醒ますことが出来るかもしれない。
大丈夫、きっとうまくいく。
そして、宮部は実行する。
(Press!!!)
入れた途端に体外射出。失敗。
(Cook!!!)
体外射出。失敗。
(Lightning!!!)
射出。失敗。
(Viper!!!)
失敗。
(Ark!!!)
・・・・・・。
無理もなかった。試したメモリは全て調整中の不完全なシロモノ。
ましてやクックメモリ以外は実用不可のレッテルを貼られた欠陥品。
現時点で、人の精神に影響を及ぼせるだけの力はなかった。
宮部は愕然とする。
自分は人を守るために、人を救うために、より良い未来のために、この研究を続けてきたというのに・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・ちょっと待てよ?
宮部はふと気づく。
"もしこの研究が失敗だとしたら"
それは、宮部が気づかないふりをしていた事柄。
"もし子供一人も助けられないという役立たずな研究成果しか上げられないとしたら"
宮部総一という人間性を保つために、おそらくは墓に入るまで気づいてはいけなかった事柄。

"―――今まで犠牲になった人々はどうなる?"

開いてはいけない箱が、開いてしまった。
"私は、私は人類のためにと、未来のためにと、研鑽を重ねてきたのに。犠牲を出してきたというのに!"
開いてしまった蓋は二度と閉じることは出来ない。
"私は、私は、私は私は私は私は私は私は私は私は、私のしてきたことは、"
ただ、その中身を無遠慮に吐き出し続け、終には、
"―――何もかも無駄だった"
持ち主の心を容易に壊す。
"ピキっ"
宮部の中で何か大事なものが折れた音がした。
遠くの空には細い三日月。
その形は人が人を笑う時の口元に似ており。
まるで、宮部と母子を嘲笑っているようだった。

1ヶ月ほどのときが流れる。
当時同僚だった桐嶋藤次というが宮部の教会を訪ねてきた。
桐嶋とは共にリジェクトメモリの研究に携わっていた仲で、よく研究のときもよくタッグを組んで仕事をしていた。
どうやら宮部のことを調べてここまで来たらしい。
その頃の宮部は、まだあの子の事件から立ち直れておらず魂の抜け殻のような状態になっていた。
宮部同様、研究者気質で人の心情を読むことが不得意な桐嶋はそんな宮部の事情など察せずに自分の計画を語りだす。
"この世界を我々のものにしないか?"
開口一番の話の内容は、テレビアニメでも観すぎたのような途方もなく愚かな話だった。
彼はミュージアム解体後も宮部同様にリジェクトメモリの研究を独自に行っていた。
そしてつい先日、その調整理論、研究設備が実践レベルにまで開発できたとのこと。
しかし、肝心のメモリを桐嶋はひとつも保持していなかった。
そこでメモリを保持していた宮部のことを思い出し、場所を調べてここまで辿りついたというのだ。
桐嶋の話は、要は自分たちのつくったメモリを使って、この世界を征服しようと言っているらしい。
桐嶋は科学者としては『博物館』に引き抜かれるほどの高い実力を持った科学者ではあるが、少々神経質で短絡的なところがあった。
宮部と一緒に廃棄物一歩手前のリジェクトメモリの研究・管理などという部門にまわされたのも、幹部の女と方針上の意見の相違でモメて、宮部の部署まで左遷されてしまったらしい。
桐嶋本人は宮部に持ちかけた話を崇高なる研究のため、人類をより高い領域に進化させるためだと体裁を取り繕っていたが、宮部にはその本性を見抜いていた。
"・・・・・・人類の進化? ふん、もっともらしいことを言うじゃないか"
宮部はどうでもいい調子で桐嶋に言う。
"・・・・・・それは単に君が自分の力の証明したいだけの話だろう?"
事実彼にはそんな話どうでもよかった。
"・・・・・・そして野心は強くても臆病者な君は、メモリを保持し協力してくれるであろう私を訪ねてきた、・・・・・・筋書きとしては大体そんなところだ"
人一人すら救えない、愚かな自分。
"・・・・・・君は、今私が毎日読まされている本に出てくる人類を騙してリンゴを食べさせた毒蛇と同じだよ"
目の前で神経質に眼鏡をいじるこの男よりも、ずっと愚物な自分。
桐嶋は宮部の言葉に動揺しながらも激しく否定した。
分かりきってはいたが、どうやら図星を突かれたようだ。
もっと言うなら、桐嶋は宮部の豹変ぶりに少し驚いていた。
自分の知っている宮部は寡黙な男で、仮に人の弱いところに気づいたとしても、このように中傷するタイプではなかったハズだ。
だからこそ、この男をパートナー(正確には部下)として選んだというのに。
桐嶋は動揺しながらも必死に弁解を試みる。
宮部はその弁解を聞いてはいたが、頭には入ってこなかった。
宮部には桐嶋その姿がただただ滑稽で愚かしいものにしか見えなかったのだ。
しかし、宮部にふとある考えが浮かぶ。
"・・・・・・もし、この男が自分のメモリをより強力なものに調整・強化出来たなら"
それは誘惑にも似た、甘い響き。

"先日の子供や、ひいては似たような境遇にある人間をまとめて救えるのではないか?"

文字通り『魔が差した』としか形容の仕様がない、悪魔的発想。
しかし、彼は迷わない。迷う理由はとうの昔にどこかへ置いてきてしまった。
宮部は、再び悪魔に魂を売ることにした。
宮部は未だ必死に宮部を説得しようとやっきになって話を続ける桐嶋を止めた
そして彼の要求をのんだ。
手持ちのメモリを提供し、研究にも協力することを約束した。
ただし、、宮部が組織のリーダーになり組織の全権限は宮部が行使できることを条件とした。
桐嶋は当然これに猛反発した。
そもそも宮部を訪ねたのだって、彼ならうまく自分のテコになってくれると踏んでいたからだ。研究所時代から周りから孤立し、研究することしか興味を持たない彼ならば、自分の都合のいいように利用できると考えていたからだ。
それが立場を逆転してしまっていては、宮部を引き入れる意味がない。
桐嶋は抗議の声を上げようとする。
しかし。
桐嶋は宮部の顔をみて上げるべき台詞を失ってしまう。
無言の圧力。
目は相変わらず死人のように力がないのに、迂闊な発言をすれば逆にこちらが命が取られるのではないかという絶対的なプレッシャー。
桐嶋はこれと同じ種類の圧力を知っていた。
研究所時代、何度か目にしたことがあった絶対的な恐怖。
廊下ですれ違うだけで嫌な汗が噴出してきたあの不快感。