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「25年前といえば、アムロの生まれた年ですわね。アムロの誕生が貴方を目覚めさせるきっかけとか?」
「そんな事無いっ!!」
俺は慌ててララァの言葉を全否定した。
“こんな事で、このわけの解らない相手との繋がりがあるだなんて思われたくない!”
「そうだな」
俺が思い描いた事への返答のような言葉が偉丈夫から発せられ、俺は視線をそちらに向けた。だが、偉丈夫の言葉は俺の考えの真逆だった。
「アムロの誕生が私の目覚めのきっかけだったのだろう。私の部屋へたどり着いた事にしても、アムロと私には密接な繋がりが存在しているのだから」
「あらぁ〜。ベターハーフ。我が片翼よ! って感じですか?」
「決め付けるなぁ〜!!」
ララァと俺との反応も真逆になった。
「俺は普通の地球人です! 特殊な能力も秀でた美貌もありません!! だ・か・ら! シャアとの繋がりは」
「能力ならありますでしょ? アムロ」
俺の否定の言葉は、またしてもララァによって止められた。
「ららぁ?」
俺は、何を言い出すんだ? とララァに顔を向けた。
「コンピューター関連に対しては、他の追従を許さないほどに卓越している…というか、コンピューターに愛されてますもの。どんなガード機能も、アムロの前ではあっという間に解除されてしまうでしょ? ハッカーで稼ごうと思えば幾らでも稼げるほどに」
「非合法的な事はしたくないし、ガード無効化も俺のイメージが一致するだけで」
「一度や二度ならそうとも言えるわね。でも! コンピューターを弄りだした頃からそうでしょ? それは、能力だと思うわよ? 私は。意識しないでいれば、霊体を生身の身体だと私が見てしまっていたように…」
「そ、それは……そう、だけど…」
「私達の種族は、工学系には卓越した能力を有している。それ故自分の生命維持装置を作り出す事が出来たのだから」
「アムロも自分で部品を作り出したり、その設計図を知り合いに教えてあげたりするんですよ。そのお陰で業績不振から立ち直った企業があるくらいですから」
「それはそれは。だが、特許を採っていればそれだけで左団扇で生活出来たのでは?」
「あらっ! そうですわねぇ。失敗でしたわ。ねぇ? アムロ」
にこにこと笑いあいながら話をする二人に、俺は頭痛を覚えて頭を抱えた。
「…あの、さぁ…。目覚めたばかりで何でそうまで俗物的なやり方を知ってるんだよ。言葉は古臭い感じだけど…」
「言っただろう? 私には所謂、超能力があると。こうして話をしながらも、いろいろな情報を入手しているのだよ」
「まぁ、便利! でしたら株価の動向など予見していただいて、儲けが出そうな銘柄を教えていただければ濡れ手に泡…」
「ララァ!!」
あまりな能力の活用法に、俺は彼女の言葉を止めようとして……
失敗した
「だって。アムロがお人好し過ぎるせいで家計は火の車なのよ? ホント、特許を採っていれば今頃、田園調布に家屋敷…どころか、東証の上場企業に成れていたかもしれないのに」
恨めしそうな目で見るララァに、俺は続く言葉を失った。
確かに、会計の全てをララァに任せっきりにしているのは俺だ。
別に仕事のえり好みをしているわけではないが、積極的に広告を出して商売をしているわけじゃあない。
だから、ほとんど赤字状態。
申告を出せば、還付金の方が多いくらいになってしまっている。住居は親父の時からの物件に住んでいるから困らないが、生活はキツキツだ。
それでも…
「ララァに面倒をかけているって事。俺は重々理解している。でも、後ろめたい思いをしてまで金を稼ごうとは思わないんだ。困っている人がいて、それが俺の助けで救われるならいつだって手を貸すし、これからもそうするつもりだ。綺麗事では腹は膨れないけど、心は汚されないからね。天に恥じない生き方が出来ればそれで俺は満足なんだ」
「流石。見事に私の半身だな、君は」
黙って俺とララァの会話を聞いていたシャアがいきなり口を開いたので、俺はビックリした。
と同時に、内容に異議を唱えたかった。
「だから! なんで俺がシャアの半身なんだって!!」
「私の対極に位置しているからだよ」
「「対極?」」
俺とララァは異口同音に疑問を口にした。
「そうだ。私は自分が良ければそれでいいと考えるほうなのだ。自分にとって何が有益で、どう立ち回れば存在を脅かされないか…。それだけを考えて行動してきたと言っても過言ではないし、今後もそうしていくだろう。だが、アムロ。君は人の為になる事は何かを考えて行動している。見事なまでに対極だろう?」
「そりゃしょうがないだろ? 保身を図らなきゃヤバい存在なんだからさ。シャアは」
俺は無意識に弁護するような言葉を口にしていた。
そして、その言葉にララァが驚いたような顔をして俺を凝視した。
シャアは、一瞬驚いた後に花が咲いたような笑顔を俺に向けた。
白皙の頬をうっすらと染めて…
“ちっ! 造作がいい奴って得だよなぁ。野郎が頬染めても、綺麗だなぁって思っちゃうんだから”
「お褒めに預かり光栄だ。だが、私にとっては君のほうが数倍も綺麗だと思えるのだがね」
「嫌味かよ……って?! 何で? 何で俺の思ったこと…。えっ? おれ、今、言葉にしてた?」
いきなりな言葉に、俺は本日何度目になるかわからない驚愕を味わった。
2011/07/01