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Fate/fiction in library

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Prologue 記録物の創作心





 ――聖杯戦争。
 かつて五回に渡って行われた戦いの名は、その奪い合う神の器を持ってそう呼ばれる。
 始まりは三人の人々であった。一人は人が持ち得ぬ魔法を持ち、一人は魔法を為す土地を持つ。そして、もう一人は彼らが持ち得ぬ物すべてを携えていた。
 そして、彼らは結託し、やがて神の領域に達するべく生み出されたそれを、聖杯と呼んだ。
 万物の声を訊き、万物の理を知り、万物の願いを叶える願望を為す器。
 ヒト成らざる力を得て、ヒトの理解を超え、知識を奥底、世界の〜アカシック・レコード〜に触れる事のみにおいて幾代もその知を重ねた怪物に成ることを望む者。
 ――そう、彼らは魔術師であった。
 だが、その願いは一様であった。彼らが望むのは、何者かがそこへ達することではなく、自らがそこへ達すること。
 抜け駆けは許されなかった。
 もちろん、それがひとつでなかったならば。
 
 神は悪戯であった。貴方の右隣りにたどり着きたい愚者は塵ほど居るのに、それに達する道を一人にしか与えなかった。
 すべての儀式を終え、たったひとつの聖杯を迎えると、やがて、三人は殺しあった。
 殺し合いの末、彼らは命と刻を失った。
 聖杯は半世紀の眠りにつき、彼らの息子の代ですらその貌を表すことがなくなった。
 戦いは孫の代に受け継がれた。
 秩序なき戦いによって、死が生まれたのでは誰もが利を得るわけでもなし。
 二度の儀式では秩序が敷かれた。
 敵対勢力である聖堂教会に監督役を申し込み、儀式でしかなかった七人の英霊のそれぞれに魔術師を割り当てた。
 魔術師は三人の息の掛かった者もいたが、その実力を認められ、聖堂教会から派遣された野心ある強者の姿もあった。
 それが、聖杯戦争の原型。
 セイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカー。
 その名に相応しい過去の英雄の、意思、感情、特性を持って、現世に顕現し、魔術師の指揮の下戦った。
 そして、そんな戦いが五代にまで受け継がれ、長い夢は、結局、この世の闇とヘドロになって潰れて消えた――。
 

 ようこそ。世界最大の電脳図書館、「人知の桃源郷」へ。
 先程お読みになられていたのは、随分昔のものですが、二千年代の文化について御興味があるのですか?


 ああ、それは、PCゲームの内容を弊社が現在の文化に合わせて書きだしたものですね。
 ゲームを書物化するにあたって、現代人が受け付けないような描写や表現もございましたが、その都度我々がアレンジさせて頂きましたため、お客様でも十分楽しめるかと。

 ええ、勿論、ここは世界最大の電脳図書館ですから、原作のゲームもプレイ出来ます。お申し付けくだされば、お客様の端末にダウンロード出来るようご案内致しますが。

 どのような内容――ですか。

 ジャンルは、バトル・ロワイヤルですかね。さっきお読みになっていたように、七人の魔術師と使い魔のコンビが殺し合います。
 そのうちに芽生える恋や友情……陰謀や執念、そして、願望器の真実が明らかになってゆきます。そうですね。ビジュアルノベルですから、文や絵を楽しむようになりますね。

 フフ、面白いことを言いますね。奇跡や魔法が現実にあるか――なんてことをそのような真剣な顔で仰っしゃるようなお方はお久しぶりでしたから。
 そうですね……。様々な本がございますが、そのような伝承や仮想はあっても、確信をつかむような証拠を捉えたものはありませんね。

 ですが、もし有り得るとしたら、それは電脳世界なら、有り得るのではないでしょうか。
 例えば――幾億の仮想世界が混じり、重なり合うような空間ならば、様々な世界が混濁していれば、どんな夢物語も、今プログラムでしかない私を人間のように接することのように、現実のように展開されるでしょう。


 興味がありますか? この「人知の桃源郷」、世界書庫なら、人の考えうるなにもかもが仮想空間において、現実に成り得ます。
 もう一度、興味がございますか? 例え、どんな危険を冒してでも、夢の国へと身を投じたいというのならば、図書館の案内人として、最大限の勤めを果たさせて頂きます――。



 
作品名:Fate/fiction in library 作家名:ROM勢