moon
真冬の夜空の下。
新一は缶珈琲を両手に抱え、空を見上げていた。
吐く息は白色に染まり、月夜のもと、煌めいては薄れてゆく。
今年一番の寒波が訪れたこの日、夜空には眩いほどの満月が輝いていた。
目の悪い新一にもはっきりとわかる、その存在感。
寒さなど忘れて、しばしの間月に見入る。
「見事な満月やのう~。ここまで綺麗やと、寒さも吹き飛ぶなぁ」
隣で鼻を啜っていた平次が、徐に声を発した。
ちらりと平次に目を向けるが、またすぐに視線は月に吸い込まれる。
「ああ…」
隣に見えるオリオン座や他の星々は、その存在感に圧倒されていた。
まるで太陽みたいだと、ふとそんな馬鹿げた感想が口から零れる。
「月を太陽みたいやて?おもろいこと言うな、工藤?」
「うるせぇよ、そう思ったんだから仕方ないだろ」
へへっと笑う平次をひと睨みし、新一は手の中の缶珈琲に頬を寄せた。
5分ほど前に買った珈琲は、既に温くなっている。
「寒いんか」
「寒いに決まってるだろ」
「ハハ、それもそや。部屋戻ろか?」
「んー…もう少し」
部屋の中で見る月と、ベランダで見る月は全く違って見える。
冬独特の、肌を突き刺す寒さが新一は好きだった。
そして。
ただ月を眺める新一。
白い吐息と僅かに赤い頬、そして満月に反射する大きな瞳。
無防備な、こんな時にしか見ることのできない新一の表情が平次は好きだった。
自分より小さな背中を、平次は覆うように柔らかく抱きしめる。
寒さで強張った身体が少しだけ緩んだ。
「なあ、知っとるか?」
「何を?」
ふたりの視線が満月に向かう。
平次は一度言葉を切って、そして呟いた。
「…月が綺麗ですね」
「………知ってるっつーの」
「流石に知っとるか」
「当たり前」
平次の腕の中にいた新一は、くるりと身を翻す。
そして手の中の缶珈琲を平次の頬へ押し付けた。
「わ、冷たくなっとるがな!」
「お前の体温が高いんだよ」
そのまま新一は顔を近づけ、唇を重ねる。
冬空の下、満月だけが輝きを放っていた。