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終焉を謳うチェーロ冒頭

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昔から憧れていた。
それはまだ、兵士になるずっと前から抱いていたものだった。勇敢なる英雄たちの遠征、凱旋。街に響き渡る鐘の音。期待に沸く群衆が作る人垣の外から、いつもその姿を追いかけてた。
馬上にある彼らは人々の歓声を背負い、前だけを見据えて外へと突き進む。格好良い。何があるかも分からない、巨人が跋扈する壁外の向こうへと旅立つその背中には、自由を奪われた人々を檻の外へと救い出そうとする翼が見えた。
エレンはその後ろ姿に憧れた。


俺もいつか、檻の外へ――……


翼を広げ、外壁の向こうへと進む調査兵団の遠征の列に、エレンは檻の中に繋がれるのを良しとしない人類の残された尊厳、反撃の意志を見た。逆光を受けながら扉の向こうへと消えていく勇敢な調査兵団の背中にエレンの心はいつも滾る。
あんな風に強くなりたい。


憧れだった。


壁外の扉が開く瞬間にだけ見える、あの輝く外の世界が。
そしてその光の中に飛び込んでいく兵士たちの姿が、エレンの心を震わせた。
幼心に植え付けられた憧憬は鮮烈だ。強烈なその景色は、瞼の裏にはっきりと焼き付いて拭い去ることなんて出来ない。
あんな風になりたいと強く願っていた。
ずっと憧れ続けている壁外の向こうに唯一飛び出した調査兵団は、昔も今もエレンの大切な夢だった。


「俺は調査兵団に入る!」


そんな夢を昔から豪語して、無謀だと周囲に嘲笑われた。バカにされ、悔しくて沢山泣いた。それでもエレンは憧れた夢を諦めることが出来ず、あの乳白色の壁の向こうへ夢を馳せた。

炎の水
氷の大地
砂の雪原
そして、海――、

それがどんなものか分からない。炎の水とは一体何なのか。氷の大地とはどのような景色なのか。砂の雪原とは、海とはどんなものなのか。分からないから分からないなりに、エレンはそれらを頭の中に思い描く。
果たして、あの壁の向こうには本当にそんな見たこともないような景色が沢山広がってるのか。疑いようもなかった。
何故ならあの壁の向こうには、自分達が今生きてる世界よりも、もっともっと大きな世界が広がってるとエレンは確信していたから。


「行ってみてぇ……」


そう言って見上げた空。しかし、壁に囲まれた世界の中から見た空は狭く、憧れた世界の景色など見れるわけがなかった。




845年以降の人類の歴史は、それまで築き上げてきた100年の安寧を突如現れた超大型巨人によって覆された。ウォール・マリア陥落による領土と人類の多大な喪失。絶望に絶望を重ねた凄惨な日々が、その日を境に何の前触れもなく始まった。

地獄とはかくあるものというべきか。
エレンは超大型巨人の襲来と共に壁の中へ侵入してきた巨人に母親を目の前で喰われた。
幼いエレンが必死に力を入れても持ち上げられなかった崩壊した家の瓦礫の山から、意図も容易くエレンの母を取り出した巨人は、もがく母の体を小枝をようにポキリとへし折り、周囲に血をぶちまける。ぐにゃりと変形した母の死体。それを頭からバキバキと、まるで久しぶりに捕った獲物を味わうかのように笑顔で食べる巨人。その光景を打ち消そうとエレンが喉が擦りきれんばかりに叫び、手を伸ばそうとも飲み込まれていく母の体……しかし、巨人の歯の隙間からプラプラと覗かせたその足に手が届くことはない。
夕日を背に欲求を満たした巨人が満足げに溢した溜め息に、エレンの心はたやすく砕かれ、そしてどす黒い底無し沼のような憎悪に浸されていく。

許さない、許さない、絶対に許さない、
殺してやる。
この世から一匹残らず巨人を殺し尽くして、根絶やしにしてやる!!

輝くだけの幼い夢に現実の巨人への憎悪が混ざり合って、エレンは幼い無知な子供から巨人を殺す術を身に付けた兵士へと成長した。


そして850年。兵士としてウォール・ローゼ トロスト区防衛戦に参戦したエレンは、その戦いの中で更に残酷な現実を突き付けられる。
己に向けられる化け物を見るような目。
押し寄せる記憶。無意識に手を噛んだとき、痛みはなかった。
次に意識を取り戻せば、熱い血肉に身を包まれていた。


「………ッ、おれが……巨人…?」


世界は残酷に出来ている。
夢や希望もない。世界は何も与えてくれないくせに、エレンから大事なものを奪い続ける。
母を失い、家を失い、そして先程まで隣に並んでいた筈の仲間達が次々失われていく現実。
そんなどこまでも残酷な世界で今、仲間である筈の“人間”に囲まれて刃を突き付けられている事実。


その時、エレンは人としての己までも失くしてしまったのだった。
作品名:終焉を謳うチェーロ冒頭 作家名:沙汰